2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

9 五年遅れの卒業(4)

「後輩、何処に行くんだい」
Mを追おうと歩みだした祐子の腕を、小柄な少女が掴んだ。
バイクの遺書を読む祐子の背から、少女が熱心に覗き込んでいたことを祐子は知っていた。少女といっても命門学院高等部の三年生だ。祐子よりよっぽど大人の雰囲気を漂わせている。鮮やかな紫のスポーツシャツの下にホワイトジーンズを穿き、黒のバスケットシューズを履いていた。祐子に手を伸ばしたときに揺れたボブカット下で、耳朶の金のピアスが光っていた。
「歓楽街に行くんです」

「遠いから送っていくよ」
祐子の血で濡れた腕を平気で掴んだ少女が、平然と言った。
「だって、あなたは補習があるんでしょう」
「後輩のためにサボることにしたよ。私はチハル、呼び捨てにしていいよ。悪いけど、後ろから読ませてもらったんだ、祐子。さあ、行こう」
学校を振り返りもせず、取り囲む同級生たちを無視して、チハルは祐子の手を取って校門へと歩いて行く。お陰で祐子は、高校生たちの好奇な目を気にせずに学校を出られる。

校門を出たところで、遠くから救急車のサイレンの音が聞こえてきた。二日後には、バイクも灰になるのだ。
祐子の腕を掴んだまま横に並んで歩くチハルが、突然話し掛けた。
「祐子は、かっこいいところを見せ付けたね。あの男のチンチンをほんとにもらったんだね。羨ましいよ」
突飛なことを言って、構わずキャンパスの裏の方に歩いて行く。
「何処まで行くんですか」
街と反対の方角に、不安になった祐子が訊ねる。
「心配しなくていいよ。学校の裏に私のオートバイが置いてあるんだ。歓楽街なんて直ぐに行けるさ。歩けば四十分、バイクで五分」
笑って言って祐子の手を離した。

「血を洗ってから行った方がいいね。セーラーはどうしようもない。赤い模様だと思えばいいさ」
十分ほど歩いてから、小さなビルの地下にある、喫茶店の駐車場に止めてある250ccのホンダを指さす。
「私の愛車」
「すごい」
オートバイを見つめて祐子が言った。バイクがついに、二度と乗ることのなかったオートバイだ。
「クオターの嘘っぱちさ。でも速いよ。さあ、乗り出す前に、店で手を洗っていこう」
チハルの行きつけの喫茶店で手を洗わせてもらった祐子は、オートバイの後ろに跨った。生まれて初めてのオートバイだった。

不安定な姿勢に不安を抱いたが、その不安を消し去るように、鋭い加速が全身を襲った。下半身がピリッと痛んだ。

さようならバイク。私はあなたが乗れなくなったオートバイに乗って、自分の道をどこまでも行きます。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

最新記事
カレンダー
03 | 2011/04 | 05
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
free area
人気ブログランキングへ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR