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4.突然の招き(9)

三日間見慣れたドームをMは見上げた。全部シャッターの開かれた丸い星空から、青い月の光が射し込んでいる。円形の室内は、まるで海の底のように静まり返っている。ガラス越しの夜空に、まだ月は見えない。青白い月光だけが空間に満ちていた。

室内にはMしかいない。耳を澄ますと規則正しい息遣いと、胸の鼓動が聞こえてくるようだ。思わず身じろぎすると、全身からギシッという縄の擦れる音が響いた。

紫檀のテーブルの上で、Mは正座している。素っ裸のまま、後ろ手に緊縛されていた。
高々と首筋近くまで掲げた両手首を、黒い麻縄が厳しく縛り上げている。手首から首の両側を回って胸に延びた縄は、両乳房を菱形に囲んで緊縛している。胸から下ろされた縄が細いウエストを二巻きし、臍の上で結び目を作り、余った二条の縄が股間に食い込んでいる。股間をくぐり、尻の割れ目を縦に走った縄尻は、手首の縄に繋がれていた。陰惨な美しさが、Mの裸身全体から滲み出ている。

また縄がきしみ、柔らかな素肌を縄目がさいなむ。
「ンー」
噛みしめた歯の間から、低い呻きが漏れた。
痛々しく緊縛されたまま、Mは三時間近く放置されていた。さすがに足が痺れ、身体の節々が痛む。

放置されてからずっと、Mは年老いていく自分を見つめていた。張りのある肌が萎び、縄目から高く突き出した乳房が垂れ下がる姿を思い描いた。股間を縦に割った縄の下では、乾燥しきった陰部と擦り切れた肛門が呻くはずだった。悲惨なほど醜い裸身が脳裏に浮かぶ。しかし、不思議と恥ずかしさはなかった。あるがままの悲惨を受容できるとさえ思った。たとえ肉体は反応しなくなっても、想像力の中で官能の極まりさえ得られると確信する。

「何を恐れる必要がある」
腹の底からMが叫んだ。二本の黒縄で猿轡を噛まされた口から、はっきり発音できぬ声が、ドームに響く。
叫ぶと同時にドアが開き、廊下から差し込む強い光がMの視力を奪う。
ドアはすぐ閉められ、毛足の長い絨毯を踏む靴音がゆっくりMの方に近付いてきた。

「どうかね、M。すべて望みどおりにしたが、成果はあっただろうか」
理事長の低い声が、月明かりの部屋に響いた。
「ありがとう、理事長。お陰で今までどおりに生きられそうよ」
猿轡の中からくぐもった声で答えた言葉は、ユーモラスなだけで、ほとんど意味をなさない。
「なんとも恥知らずで、情けない格好にしか見えないが、それでもMは美しい。やはり、美しさがMの自信の源なのだね」
「いいえ、私は自分の美しさなどに信はおかない。そんな儚いものは要りもしない。想像力だけが、その場その場で最善の道を選ばせてくれる」
「申し訳ないが、Mの言葉は聞き取ることができない。私の都合で、お気に入りのコスチュームを取らせてもらうよ」
月明かりに青々と輝くシルクのスーツを着た理事長が屈み込み、Mの首筋に両手を回して猿轡を外した。

「理事長、私が縛られることを好むからといって、自虐的に思考するとは思わないでください。美しいものをおとしめることで想像力を呼び出しているとは、決して言わないでください。逆に想像力が、縛られることを求めるのです。想像力の方向を、私の好みが決めているのだと理解してもらった方がいい」
「ハハハハ」
理事長の乾いた笑い声がドームに響いた。声の中にMは、はっきりとした苛立ちを聞いたと思った。

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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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