2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

12.物語の始まり(3)

古びた墓石が延々と続く、墓地の奥まった位置に浄真寺の墓所がありました。
いかにも日当たりがよさそうな場所で、広さは普通の墓地の十倍もあります。頭部が丸くなった、大小十基の僧職者の墓が整然と並んでいます。右端にある大きな黒御影の墓石の後ろに道子さんがいました。墓所の入口に立つ僕たちから四メートルの距離です。

道子さんは、墓石の後ろに巡らせた石の柵の上に立っていました。端正に着こなしていた白地の振り袖の前が、すっかりはだけてしまっています。剥き出しになった豊かな乳房が怒ったように上を向いています。腰を覆った薄桃色の湯文字が、不思議な艶めかしさをかもし出していました。

1メートルの高みにすっくと立ち上がった姿はまるで、天界から堕ちてきた菩薩のようです。ねじ曲がって頭上に張り出したサルスベリの枝が天蓋に見えます。地面に敷き詰めた細かい玉砂利の上に、朱色の帯や色とりどりの紐が乱れ落ちていました。

「遅いじゃないの。道草はやめてよ」
なぜか、会ったときと同じ言葉で呼び掛けてきました。改めて異様な光景が目に焼き付きます。道子さんがMの分身になって出現したような幻覚が、再び襲ってきました。
「やばいな、首を吊る気だ」
晋介の覚めた声が耳を打ちます。慌てて観察すると、細い首に銀色の組み紐が巻かれていました。紐の先を手にした道子さんは晋介を見向きもせず、真っ直ぐ僕を見据えています。

「進太、姉の死に立ち会えるなんて最高でしょう」
呻くような声で呼び掛けて、両手を高々と上げました。張り出したサルスベリの枝に首から延びた組み紐を慎重に結わえ付けます。まるで、迫り来るMを牽制しているような身動きでした。見えない手で制止されたように、僕たちは動きが取れません。
「参ったな、セット完了だよ。あの紐は細いけど、丈夫だろうね。あの高さから飛び下りれば、頸椎が折れる。最悪だね」
晋介の声が響きました。細い絹糸を無数に合わせて組んだ紐は強靱なはずです。道子さんの体重くらいで切れる道理がありません。僕の首筋を冷気が掠めます。残った勇気を振り絞って一歩を踏み出しました。

「道子さんやめなよ。死なないでくれ」
悲壮な声で訴えました。僕を見下ろした道子さんの口許に妖艶な笑みが浮かびます。
「いくら弟の頼みでも、そればかりはだめね。私はMに殺される前に死ぬ」
「いやだ、僕は道子さんの弟だ。見捨てないでくれ」
反射的に答えていました。言ってしまってから、妄想に同調してしまったことを悔いましたが、もはや手遅れです。道子さんの身体が一回り大きくなったように見えました。
「進太は殊勝なことを言ってくれるね。縁薄かった弟に、私の誠を見せてあげる。しっかり目に焼き付けるといいわ。私は死んでも、進太の中で生きる」
厳かな声が高みから落ちてきました。すでに前がはだけている振り袖を、一気に肩から脱ぎ落としました。薄桃色の湯文字一つで腰を覆った半裸の姿があらわれました。もう完璧に菩薩像です。思わず息を呑んでしまいました。

背後にいる晋介が、大きく舌打ちをしました。
「道子さん、もっと自分を大事にしなよ。俺たちはストリップを見に来たんじゃないぜ。下りてくれば、壇原先生に会わせてやるよ」
冷たい声で呼び掛けました。あまりの展開に、晋介も居たたまれなくなったようです。道子さんが怖い顔で一瞥しました。
「連れの子供は、いつもゴチャゴチャとうるさい。私と進太は姉弟なのよ。弟に誠を見せてどこが悪い」
道子さんが怒声を発し、晋介を無視するように臍の下で結んだ紐を解き去りました。薄桃色の布が地上に落ちます。素っ裸になった股間で漆黒の陰毛が天を突いています。さすがの晋介がたじろいだ気配が伝わってきました。
関連記事

コメント

非公開コメント

プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

最新記事
カレンダー
03 | 2024/04 | 05
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 - - - -
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
free area
人気ブログランキングへ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR