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12.物語の始まり(5)

「やっと静かになった。手間を掛ける女だ」
大きく息を吸い込んだ晋介が、満足そうにうそぶきました。足下では素っ裸で胡座縛りにされた道子さんが呻いています。両の乳房が足首に密着するほど裸身が前屈しています。江戸時代の海老責めの拷問を受けているのと同じ姿でした。大きく開いた両膝を震わせて呻き、苦痛に呻吟する裸身が小さく見えました。晋介の暴力の前では、妄想も急速に漸減していくようです。左右に尻を動かして喘ぐ姿が痛ましくなります。

「道子さん、苦しいのかい」
苦痛を案じて声を掛けてみました。
窮屈な格好でうなだれていた道子さんが声に反応し、即座に顔を上げました。僕の視線を正面から受け止めます。真空のようだった道子さんの目に光が甦っていました。
ホッとしたとたんに、僕の心は凍り付いてしまいました。道子さんの目の底で燃えている、官能の炎が見えたのです。減退した妄想が露出させた分裂した無意識の隙間から、官能の炎が揺らめき立っていたのです。道子さんの無防備な意識がかいま見せた性が、僕を震撼させます。股間が熱く燃え上がり、再びペニスが勃起してきました。

「壇原先生に電話してくるよ。ここへ来てもらうことにする。もう、通院じゃ済まない。入院が必要だよ」
晋介が言い捨てて、去っていきます。僕は答えることができません。遠ざかっていく足音が合図のように、道子さんが不自由な身体で仰向けに倒れました。
大きく露出した股間を宙に掲げて尻を振り、妖しく身悶えを始めます。苦痛の呻きが、僕を誘っているように聞こえました。殺風景な墓地の中で、官能の炎がメラメラと燃え立っているようです。Mの幻影がしきりに脳裏を去来しました。
僕は、猛り立ったペニスを、道子さんの股間に突き立てることはできません。しかし、これまでたどってきた「Mの物語」のヒロインであるMなら、きっと、道子さんの求めを受け入れているはずです。Mは道子さんと共に、官能の極まりを追い、悲しさを共有するでしょう。それがMの生き方でした。求めに応じきれない自分が歯がゆくなります。
目を閉じると、微笑んでいるMの顔がまぶたに浮かびました。でも、その顔はけして、慈愛に溢れているようには見えません。今の僕には、どことなく恐ろしい顔でした。狂者の顔のようにも見えます。Mは、心を病む人と一緒に病むことを厭わなかったのでしょう。それどころか、自ら進んで、その場に身を置いたのです。行き着く場所を決めずに、果てのない修羅の道に踏み込んだMが、今、僕に向かって微笑んだのです。
僕の背筋を、恐怖が掠めました。

自らの責任と人格に基づき、自由に生きるということは、終わりのない修羅の道に踏み込んで行くことでした。とうてい、僕にできることではありません。
そう思った瞬間、急にMが遠ざかっていきました。僕を置き去りにして遠ざかっていくのです。
一瞬、悲しさが僕の胸に満ちました。でも、ほんの瞬間です。

目を開くと、悩ましく悶える道子さんの裸身が見えました。Mと同様、申し分のないほど美しい肉体です。僕は道子さんを、Mの隠し子、Mの分身として認めようと思います。
この三か月の間、様々な事実に立ち向かい、真剣に見つめてきた視線が、僕の被写体を見る目を鍛えてくれたようです。写真家になる自信が湧いてきました。

これから生きていく時間の集積がきっと、Mが求めた官能の秘密を僕に明かしてくれるでしょう。
淫らにうごめく道子さんの尻が、折からの斜光で赤く染まりました。カメラを持っていないことが悔やまれますが、今日はどうやら渡良瀬橋の夕日が見られそうです。
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官能のプリマ全10章
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