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8.終焉(3)

「アッ」
小さく叫んで、進太は唇を噛んだ。出掛けに見た清美の裸身を急いで思い返す。尻の割れ目にのぞいていた肛門が目に浮かんだ。剥き出しの尻だった。股間を縛り忘れてしまったのだ。陰部に食い込む股縄がなければ、清美は自由に歩行できる。せめて足首を縛るべきだったと思った。自転車が転倒した時の擦り傷を哀れみ、膝上を縛っただけで済ませたことが悔やまれてならない。進太はバイクのスピードを緩めずに長屋門を潜り抜け、急いで母屋の裏に回った。大きく見開いた目に、開け広げられた扉が飛び込んできた。背筋が冷たくなりハンドルを握る両手が硬くなった。バイクから飛び降り、土蔵に駆け込む。寒々とした室には、清美の裸身に掛けた毛布が落ちているだけだ。目の前が真っ暗になったが、目まぐるしく頭を働かせて時間を計算した。時刻は午前八時を回ったところだ。最大限の時間を考えてみても、清美が逃亡してから一時間しか経っていない。築三百年の屋敷から街道まで、急いで歩いても一時間はかかる。それに清美は素っ裸で後ろ手に縛られているのだ。山に逃げ込む恐れはない。街道に出て助けを求める以外に、救出の望みはないはずだった。きっと、この土蔵と街道の間に潜み、バイクの音を聞いてすくんでいるに違いなかった。急いで街道に戻り、築三百年の屋敷へ向かって追っていけば捕らえることができる。捕らえなければ生涯が終わると思った。進太は再びバイクに跨り、怖い顔で街道を目指した。

清美は街道に向けて歩き出して十五分ほどのところでエンジン音を聞いた。歩き続けて火照った身体が冷水を浴びたように冷たくなった。無防備な裸身がわなわなと震える。思わず道端にしゃがみ込んでしまった。喉元に吐き気が込み上げてくる。ようやく緩くなった縄の猿轡の間から、唾液にまみれた布切れを舌で押し出す。黒いTバックのショーツが足元に落ちた。堪らない尿意が襲い、下腹がキリキリと痛んだ。背中で緊縛された両手を捩ってみたが、高手小手に縛り上げた縄目は緩みもしない。バイクの音がますます高まる。もうこれまでかと観念してうなだれると、足元に落ちた黒い布切れが目に入った。お気に入りだったショーツがぼろ切れみたいに転がっている。醜く汚らわしい眺めだった。途端に怒りが込み上げてきた。教え子ごときに負けてなるかと歯を食いしばる。

「私は教育者よ。負けるもんですか」
大声で叫んだ。久しぶりに耳を打った自分の声が、萎えかけた勇気を奮い起こしてくれる。両足に力を入れて立ち上がり、枯れた枝が行く手を阻む山の中へと踏み入っていった。シダと苔に覆われた窪地に下り、再び小高い雑木の茂みに上ったところでバイクの音が擦れ違っていった。全身を緊張させてしゃがみ込むと、遠ざかっていく進太の背が見下ろせた。だが、間もなく凄い勢いでバイクが戻ってきた。逃亡を発見した進太が追跡を開始したに違いなかった。バイクで追う進太に発見される恐れはなかったが、清美も身動きがとれそうにない。かん高いエンジンの音は遠く低く、街道の方角から響き続けた。清美は右手に続く細い獣道を通って、山越えで街道に出ることを決心する。枯れ枝の下を這うように進む、困難な道が待ち受けているはずだった。だが、不思議と恐怖は無かった。なだらかな山並みは、時間を費やせば必ず街道に出られると確信できるほどのスケールだ。枯れ草や枯れ枝に責められて、縛られた裸身が擦り傷だらけになるぐらいで済むに違いない。尻を鞭打たれる痛みと屈辱より、よっぽどましだと思う。清美は方向を変え、小さな沢に下りる獣道に分け入っていった。

進太は街道と築三百年の屋敷の間を、ずいぶん長い時間走り回った。しかし、清美を発見することはできなかった。熱い焦燥が全身を焼き尽くす。路肩にバイクを止めて肩で大きく息をついた。車体を揺するとフューエル・タンクの底で貧相な音が響いた。もうほとんどガソリンも残っていない。ぼう然と眺める山襞が真っ白になり、やがって真っ赤に染まった。もう破滅しか残されていないと覚悟した。全身が硬く緊張してくる。

「ウワー」
大声で叫ぶと、力強いこだまが帰ってきた。どことなくチハルの声に似ていた。懐かしさが込み上げてきて涙がこぼれた。進太はバイクをUターンさせて、ドーム館を目指した。もはやチハルに救いを頼む以外に道はなかった。何ともやり切れない気持ちだったが、もう子供の出る幕ではないような気がした。涙が止まらなくなる。やはり負け続けるのかと心の底で思い惑い、きつく歯を食いしばってハンドルを握り締めた。

8.終焉(2)

清美の耳に、遠ざかっていく低いエンジン音が聞こえた。肩の力を抜き、正座した背を太い柱に預けた。闇の中で何も見えないが、裸身を覆った毛布がうれしい。冷え切った身体が温かくなっていくのが分かる。一人で放置されたことで気持ちの落ち着きも戻ってきた。尻に走る鞭痕が痛い。昨夜の屈辱を思い出して裸身がカッと熱くなる。大きく身震いすると縄目が軋った。乳房の上下を縛った縄が素肌を擦る。後ろ手にされた手を握り締めた。恥辱の姿態が闇の中に浮かび上がるようだ。だが、ついに進太は隙を見せたのだ。前屈させて天井から吊り下げた裸身に情けを掛けた。その情けを掛けさせたのが教師としての自分の力量だと思うと、今度は全身が矜持に震えた。清美は中腰になり、縛られた両手で柱をなぞった。縄尻を縛り付けた結び目がすぐに見付かる。二重になった固い結び目に爪を立てた。指先に力を込めて懸命に解こうとする。縄で括られた手首が痛くなると位置を変えて左手を使った。何回か手を替えて結び目に挑んだ挙げ句に、右の親指と人差し指の爪が割れた。血の滲む感触で背筋が寒くなったとき、さしもの結び目も緩んだ。急いで柱から縄を解き、痛む腰を我慢して立ち上がった。裸体を覆った毛布が床に落ちた。途端に冷気が素肌を襲った。だが、繋がれた縄から解放された喜びに勝るものはない。膝の上を縛った縄が邪魔をするが自由に歩ける。猿轡の中で喚声を上げた。闇の中をヨチヨチ歩きで扉へ向かう。足がもつれて転びそうになった。思わず悲鳴を発したが、裸の肩が壁に当たって持ちこたえた。おまけに壁が動いた感触があった。清美は渾身の力を込めて壁を押した。低い軋り音とともに扉が外に向けて動いた。白い光が射し込み、冷たい外気が頬に触れた。闇に慣れた視界が真っ白になる。大きく目を見開くと涙が出た。

後ろ手に緊縛された裸身が土蔵から外に転がり落ちた。枯れ草に降りた霜が素肌を責める。清美は歯を食いしばって立ち上がろうとするが、膝上を縛った縄が動きを邪魔する。やっとの思いで立ち上がり、ヨチヨチと三歩ほど歩いたが、素足を襲う霜の寒さに耐えられそうにない。焦りが全身を追い立てたが、この一瞬に逃亡を賭けるしかないと思い定めて土蔵に戻る。室の隅に投げ捨てられていたスニーカーに苦労して両足を突っ込む。足元さえ決まれば、たとえヨチヨチ歩きでも、二時間あれば街道に出られる。後は、戻ってくる進太と遭遇しないように注意すればいい。どうせ、進太はバイクで帰ってくる。あのかん高いエンジン音が警報になると思った。進太が去ってから、もう三十分は経過している。何としても急ぐことだ。清美は思いにまかせぬ歩みに歯がみをしながら、霜の降りた白い地面を歩いていった。

崩れた母屋を回って庭に出たときには、膝の上の肌に血が滲んでいた。歩みに連れて縄目が擦れ、皮膚が裂けてしまったのだ。だが、お陰で縄目が緩み、足が抜けそうな気がする。清美は眉をしかめて前方の長屋門を見つめた。屋根の上には真っ青な空が広がり、淡い日射しが差し込んでいる。日陰になった土蔵の周辺とは違い、降りた霜も溶け去っていた。狭い歩幅で苦労して歩いてきたせいもあるが、うっすらと裸身が汗ばんでいる。久しぶりに天気も温かくなるような気がする。裸の身には好都合だった。恥ずかしさを思い起こさぬように歩を進める。股間を縛られなかったことが唯一の救いだった。進太は昨夜、清美の裸身を様々に縛り上げ、最後に股間縛りで歩くことを強いたのだ。にやにやと笑いを浮かべて見つめる進太の前で、一歩を踏み出した途端に陰部を激痛が襲った。あの屈辱は今も忘れることができない。女の性をなぶりきる責め苦だ。股間にめり込んだ縄が、情け容赦もなく性を蹂躙したのだ。だが今は、不自由な歩みでも普通に歩ける。股間を縛らなかった進太の落ち度を嘲笑ってやりたかった。庭の中央にある松の木の下まで来たところで、膝上を縛った縄がようやく抜け落ちた。もう歩行を妨げるものはない。後ろ手に緊縛された裸身を躍らせて長屋門に向けて走った。もう一時間近く経過した気がする。今にもバイクのエンジン音が轟いてくるような気がして恐ろしかった

進太はドーム館の駐車場にゲレンデヴァーゲンを戻した。昨夜清美の自転車にぶつけたフロントバンパーを点検してみたが、大小無数の傷があって特定することができなかった。安心してリアゲートを開け、蔵屋敷に寄って積んできたバイクを下ろした。エンジンをかけると、かん高い轟音が心地よく谷間にこだました。四輪車よりバイクがいいと心底思う。玄関まで行ってインターホンを押してみたが、やはりチハルは帰っていない。ゲレンデヴァーゲンのキーを郵便受けに投げ入れてからカワサキKX60に跨った。土蔵に残してきた清美が急に心配になる。凄いスピードで山を下って築三百年の屋敷を目指した。往路と同様、街道を走るときは気を使った。しかし、今日は幸い土曜日なので学校が休みだ。通学する生徒たちの目を気遣うことはない。アパート暮らしをしている清美の失踪も、月曜日まで秘匿できるかも知れなかった。すがすがしい気持ちで横道に入り、全身に朝日を浴びてスピードを上げた。中腰にしたままハンドルを握り、荒れた路面から伝わるショックを膝の屈伸で吸い取る。面白いように路面の凸凹をクリアできた。額にうっすら汗が浮き出たころ、右手に遠く長屋門が見えた。まだ黄色い枯れ葉が残るクヌギの枝越しに見た長屋門は、どことなく不吉な様相をしていた。浮かび上がってきた不安を吹き飛ばすように、素っ裸で放置してきた清美に思いを馳せる。

8.終焉(1)

夢を見ているのは分かっていた。それも怖い夢だ。Mの身体が規則的に揺れている。不安定で心細い気持ちがますます募っていった。夢の中のMはやっと幼児になりかけたばかりで、まだおむつも取れていない。腰の回りが不自然に膨らみ、濡れた布が不快だった。尻の下はブランコの硬い木の板で、両手は太い鎖を硬く握り締めている。大きく、大きくブランコが揺れる。揺れに応じて幼いMの不安は高まる。小さな足の下に地面はない。宙に浮かんだブランコがM一人を乗せて揺れ続けている。早く降りたかったが、一人では降りることができない。ブランコに乗せてくれた大人を捜して辺りを見回す。まるで雑踏のように人たちが行き交っている。たたずんで見つめている顔もたくさん見えた。だが、捜している顔がないと思ったとき、突然戸惑いを感じた。頬が真っ赤になり、泣きべそになったのが分かった。捜している顔がなかったのではなく、捜す顔がなかったのだ。急いで母と父を呼ぼうとしたが、二人の顔も思い浮かばない。焦りが全身に込み上げ、背筋を恐怖が貫いていった。太い鎖を握った両手がブルブルと震え、涙が流れた。身体を震わせながら、声を立てずに泣きじゃくった。ブランコは揺れ続け、恐怖が全身を占める。冷たく濡れていた尻が急に温かくなった。心の底に温かさが伝わっていくような気がする。その小さな希望に縋り付くようにして、幼いMは長々と失禁した。

Mは慌てて股間に手を伸ばした。手に触れた陰毛は湿り気を帯びていたが、失禁はしていなかった。僅かに覚醒した意識が見た、嫌な夢が断片的に甦ってくる。性夢のようなときめきを感じた。これまでに何回となく見てきた夢だった。今もなお、私はブランコから降りられないでいるのだと、告げられたような気がする。孤絶した悲しみを感じた。下半身が寒い。夜明け前の寒さが室に忍び込み、毛布からはみ出た剥き出しの尻を撫で回している。大きく身震いして、狭いダブルベッドで裸身を縮めた。無性に温かさが欲しかった。縮めていた両手足をおずおずと伸ばす。名淵の裸身に手足が触れた。温かな素肌の感触が胸の奥まで沁み入ってくる。がっしりした裸身を全身で絡め取った。狂おしく素肌を擦り付けると、小さな声で名淵が呻いた。セクシーなバリトンの呻きだ。喉元まで懐かしさが込み上げてくる。前に回した手で股間を探った。量感のあるペニスを手の中に包んで撫でさする。

「もう少しだよ。まだ眠らせてくれ」
寝ぼけた声が聞こえた。手の中のペニスが硬くなってくる。Mは毛布の中に潜り込み、勃起しかけたペニスを口に含んだ。まだ弾力のある肉を舌でなぶる。口中一杯に膨らんでくるペニスが愛おしい。このまま射精させて精液を呑み込みたいと思った。ブランコから降りる必要はない。素っ裸の名淵を後ろ手に縛り上げ、絶頂を極めるまで鞭打ってやりたくなった。


進太は土蔵の厚い扉をそっと開いた。白い光が目にまぶしい。飛び込んできた外気が冷たく頬を刺した。思わず後ろを振り返る。清美の裸身がブルッと震えた。清美は素っ裸で後ろ手に縛られている。膝上で足を縛った縄と首縄の間を別の縄で短く連結されている。上体を前屈させて尻を突き出した惨めな格好だ。足首が縛られていないので、ヨチヨチ歩きで歩くことはできた。しかし、後ろ手から延びた縄が裸身を無情に天井から吊り下げている。かろうじて身体の向きを変えられるだけだ。うつむいていた顔を上げ、恨めしそうに進太を見上げた。縄の猿轡が哀れさを誘う。口中には黒いレースのTバックショーツが含ませてあった。あまりの口うるささに閉口した進太が、口封じのために噛ませたものだ。

「素っ裸では、やはり寒いか。キヨミ先生が風邪を引くと僕も困る。一晩でずいぶん素直になったから、立ち縛りは許してやろうか」
進太が独り言をいって清美の前に戻った。素肌に鳥肌が立ち、前屈した裸身が微かに震えている。猿轡を噛ました口が動き、見上げる目に哀願の色が見えた。寒さを訴えているに違いなかった。ドーム館にゲレンデヴァーゲンを返して、土蔵に戻ってくるまでの時間は四十分ぐらいだ。蔵屋敷に寄ってバイクや食料などを取りそろえても、一時間あれば戻れる。そのくらいの時間なら、清美を吊っておかなくても安全なような気がした。バケツを跨がせて放尿させてからは、さすがに清美もおとなしくなっていた。威嚇の鞭打ちも効果があったはずだ。

「監禁の原則には違反するけど、戻るまでおとなしくしていると先生が誓うなら、吊り縄を解いて座り縛りで柱に繋ぐことにしますよ。毛布も掛けて上げる。さあ、どうしますか。誓えますか」
進太の問いに、清美がうれしそうに首を振って応えた。
「よし、後ろを向きなさい」
命じられたとおりに、清美は膝上を縛られた不自由な身体で向きを変えた。進太の目の前に裸の尻が突き出された。白い双臀に五本の赤黒い鞭痕が残っている。そのうちの一つは尻の割れ目に食い込み、肛門の端を赤く腫れさせていた。昨夜の興奮が甦る。尻の後ろに屈み込み、伸ばした舌で肛門を舐めた。くぐもった悲鳴が上がり、白い尻が大きく揺れた。ジーンズの中でペニスが勃起してくる。進太は卑猥な笑いを浮かべて立ち上がり、清美を天井から吊り下げた縄を解いた。首と足を連結した縄も解き去る。前屈した裸身がうれしそうに伸び上がった。
「さあ、柱の前に座ってください」
進太が命じると、素直に清美が従う。縄尻を柱に結わえ付けてから、裸身を毛布で覆った。これで清美も暖かくしていられると思うと気が軽くなった。土蔵の扉を大きく開け放して外気を入れる。母屋の屋根に遮られて日は射し込まないが、霜に覆われた枯れ草さえ生き生きとして見えた。進太は慎重に扉を閉めてからゲレンデヴァーゲンの運転席に座った。時刻は午前七時だった。日の出から三十分が経過していた。

7.もう一つの拉致(7)

「先生、無理をしちゃだめだよ。追突の時に、きっと軽い脳震盪を起こしたんだ。側頭部に大きな瘤ができていたよ。楽にしていた方がいい」
無邪気な言葉が清美の怒りに火を点けた。もう、事実を認めるしかなかった。
「進太ちゃん、何を言うの。先生にこんな乱暴をして。もう、ただでは済まないわよ。早く縄を解きなさい。できるだけ穏便に済ますから、悪質ないたずらはやめなさい」
叱責の声を進太は平然と聞き流した。清美も意外に無能な女だと思った。
「決していたずらじゃないですよ。どう見ても立派な暴力です。僕は先生に説得されて、補習の約束をしたけれど、やはり嫌になりました。だから、約束した相手のキヨミ先生を、消しゴムで消すことに決めたんです。ここで監禁することにします。つまり、外の世界では先生は消えてしまう」
倒れ伏した清美の裸身に、進太の無表情な声が落ちた。清美の背筋を恐怖が貫く。狂気としか思われない言葉だった。大声が口を突いた。

「なんて馬鹿なこと言ってるの。監禁ですって。私を消してしまうですって。戯言を言わないで、現実を見なさい。たかが補習の講師になりたくないからと言って、教師を監禁する馬鹿がどこにいますか。それも先生を裸にして辱めるなんて聞いたこともない。今なら許します。早く縄を解きなさい。お願い、進太ちゃん、早く冷静になって」
「冷静になった方がいいのはキヨミ先生ですよ。僕が取り返しのつかない道を選び取ったことを、先生は理解すべきだ。たとえいくら不合理でも、現実は現実として認めるべきなんです。それに、監禁にはそれなりのマニュアルがあることも知っていた方がいい。素っ裸にして拘束するのが監禁の原則です。もっとも、僕はチハルとは考えが違うから、先生が素直になりさえすれば、週に一度は服を着せます。シャンプーも行水も認めますよ。何と言っても先生は一生、ここで僕と一緒に暮らすんですから。さあ、そろそろ立ち縛りにしますよ。それとも隅にあるバケツで小用を済ませてからにしますか」

進太の声が終わると同時に、清美の怒りが消え失せていった。進太は完全に狂気に取り付かれてしまったと思った。居たたまれない絶望だけが清美をさいなむ。悔しいことに尿意も襲ってきた。冷たさが下腹部を責める。だが、進太はバケツを使って小用を足せと言ったのだ。真っ黒な絶望が襲い掛かり、目の前を死が掠めた。舌を噛みしめた歯に力を込める。舌の痛みが全身に伝わり、素っ裸で舌を噛んだ死に様が脳裏に浮かんだ。犬死にを絵に描いたような滑稽な死だと思った。その時、啓示のように内なる声が響いた。「狂気は必ず隙を見せるはずだ」と声は告げた。すんでの所で清美は歯の力を緩めた。初めて希望が見えたような気がした。妄想のような希望だったが、清美はその希望を信じた。狂気に捕らわれた教え子の隙を勝ち取れなければ、教師として生きてきた値打ちが無いと確信した。ましてや、教え子に責められたくらいで自殺するのは笑止の沙汰だった。これは形を変えた学校暴力に過ぎないと、必死に思い込もうとした。

清美は歯を食いしばって立ち上がり、胸を張って進太に小用を要求した。差し出されたバケツの上に堂々と屈み込んだ。素っ裸で後ろ手に緊縛された背筋を伸ばして、真っ正面から進太を見上げた。教育者の力で何とか恥辱に打ち勝ちたいと願ったが、恥ずかしさで全身が赤く染まる。裸身がぶるぶると小刻みに震えだした。思い切って両膝を開き、進太の目に股間を晒す。歯を食いしばって放尿した。だが、長々と続く放尿がたまらない屈辱を呼び覚ました。清美は肩を落として顔を伏せ、さめざめと泣いた。

7.もう一つの拉致(6)

「凄い、見直したよ」
声に出してつぶやいてから、進太は立ち上がった。テーブルに載せたランタンを引き寄せ、下着姿で横たわる清美を明るく照らし出した。見下ろした清美は、服を着ていたときとは別人のようだ。二十代後半の、美しい盛りの肉体を誇らかに晒している。黒いレースで透けて見える乳房は、はち切れんばかりに盛り上がっている。細く締まったウエストから豊かな腰が広がり、股間を割った紐のような布切れの両端から柔らかな陰毛がはみ出ていた。進太は美しさに誘われるようにして再びしゃがみ込んだ。肩と尻を持って身体をうつ伏せにする。丸い尻の割れ目を走る黒い紐が真っ先に目を射た。裸と変わりのない、より艶めかしく見える尻だ。進太は唾を呑み込んでから黒いTバックを脱がした。ブラジャーのホックも外して背中をあらわにさせる。滑らかな素肌が手に張り付きそうだ。均整のとれた裸身が目にまぶしかった。

「ウーン」
突然清美の口からうめき声が漏れ、大きくくしゃみをした。進太は慌ててランタンを消す。真の闇が訪れた。手探りで床に置いた麻縄を捜す。
「寒いわ。ここはどこ」
清美の掠れた声が響き、身体を起こす気配がした。進太は麻縄を握り締めたまま床にうずくまり、じっと清美の気配を探った。
「明かりはないの。何も見えない」
また清美の声が聞こえた。進太は声の方ににじり寄る。すぐ側で荒い息づかいが聞こえた。闇を怖れる清美の恐怖がヒシヒシと伝わってくる。後は清美の向きを確認するだけだ。進太は手に持った麻縄で床を薙いだ。縄の擦れる不気味な音が響き渡る。
「だれ、誰かいるのね」
すぐ前で声がした。間違いない、清美は背を向けている。進太は両手を開いて闇を抱きすくめた。清美の両乳房を左右の手に感じた。すかさず両脇に手を差し入れて、腕を背中にねじ曲げる。素早く麻縄を素肌に這わせて後ろ手に縛り上げる。

「痛いっ、何をするの。痛いわ、痛いっ」
闇の中で清美が大声を上げて裸身を揺すったが、抗う術はない。二週間に渡って博子を縛り慣れた進太には闇も妨げにならない。きつく乳房の上下を縛り上げてから、首縄を掛けて縄止めをした。緊縛が終わると、観念したように清美の身動きが止まった。荒い息づかいだけが伝わってくる。
「だれなの、一体だれなの。こんな乱暴をされるいわれはないわ。人違いじゃないの。それとも、車をぶつけた人なの。ねえ、何とか言ってよ。裸で縛り上げるなんてあんまりだわ。ねえ、答えなさいよ」
闇の中で後ろ手に緊縛された恐怖で、清美は連続して言葉を投げた。床に正座している気配がする。全裸にされたことも認識しているらしかった。進太は手探りでランタンを置いたテーブルを捜した。ランタンの自動点火装置を探し出して慎重に操作した。カチッと乾いた音が響き、蔵中がまぶしいくらいに明るくなった。中央に正座した裸身がブルッと震えた。ランタンを背にした進太を見上げる。

「消して、明かりを消してください。お願い、見ないで」
真っ赤になった顔を伏せて、頭を左右に振りながら清美が叫んだ。素肌を噛んだ縄目の軋る音が陰惨に声に混じった。
「キヨミ先生、明かりを点けるように頼んだのは先生ですよ」
進太の低い声で清美が顔を上げた。大きな目をさらに大きく開いた驚愕の表情で進太を見つめる。
「まさか、進太ちゃんなの。暗くてよく見えないけれど、嘘でしょう。進太ちゃんがこんなことをするわけがないわ。だれなの」
清美が凛とした声で叫んだ。人が事実を認めたくないときは、事実を拒絶してしまうのだ。だが、進太は拒絶されるわけにいかない。二歩前に進み、明かりの当たる場所に出た。清美から二メートルの位置だ。正座した清美の目の前に進太が立っている。剥き出しの股間で大きく勃起したペニスが反り返っていた。もじゃもじゃの陰毛の中に突き立ったペニスが嘲笑っているように見える。清美は小学校三年生の夏休みの山根川で、進太と水遊びをしたことを思い出した。進太は素っ裸だった。皮を被ったかわいいペニスをよく覚えている。その小さかった進太が、教師の清美を素っ裸にして後ろ手に縛り上げたのだ。挙げ句の果てに、猛々しく成長したペニスを目の前に見せ付けている。とても信じられることではなかった。許されることではない。全身から血が引いていく感触がした。正座した膝が崩れ、白い裸身が床に倒れた。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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