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4 看護人の手腕(2)

「ねえ、M、」ママが誘うような口調で話し始めた。太い喉元に掛けた、重そうな金のチェーンが微かに揺れる。
「素っ裸のまま後ろ手に縛られ、首を吊って死にかけたチーフと、死んでしまった宏志は病院に行けたのよ。その場に警察は入らなかった。クラブの客たちが事件が公になることを許さなかったの。幸いなことに、客の中にピアニストがいたのよ。彼がアルバイトをしていた潰れそうな病院に、クラブの車で二人を運び込んだの。ひどい病院もあったものだわ。医師免許も持たないピアニストが、看護婦と一緒に宿直をしているんだから、笑ってしまう。でも助かったわ」
シェーカーを振るチーフの前に立ったグラマラスなナースが、突然話に割り込んできた。

「ママはおかしそうに話すけど、病院の名誉のために一言いわせて」
黒の薄いシルクシャツに透け、同色のブラジャーで被った豊かな胸が揺れる。とても看護婦には見えないナースだった。
「年を取った夫婦だけでやっていた外科・内科病院なの。夫が外科医で妻が内科医。病院と同じ敷地の中に住まいがあって、夜間は帰ってしまうの。入院患者の世話をするだけのために、夜間の看護婦と医学生のアルバイトがいるだけ。医療行為が必要なときは、先生を呼びに行ったわ。チーフが担ぎ込まれたときもそうよ。ただ、宿直のアルバイトが患者と一緒に出勤して来た。それだけのことよ。一人は明らかに変死なんだから、ひどいのはむしろ患者の方よ」
「まあ、ナースの言うとおりね。夜間の看護婦がこのナースだったので助かったというのが本音よ。それに先生が年寄りで苦労人だったから、警察沙汰にならなくて済んだ。まあ、私の人格が信用されたってところね」
ママの大きな鼻が、自慢そうにぴくりと動いた。ナースがママに片目を瞑って見せてから、その夜の様子を話した。

「私だって本音はびっくりしたわ。まさか、素っ裸の若い女性が、後ろ手に縛られたまま来院するなんて信じられなかった。でも、アルバイトのピアニストが平気な顔で縄を切って、病院の寝間着を着せてしまうんだもの、仕方なく協力させられてしまった。それほど、ピアニストは手際が良かった。一人前の医師のように振る舞うんだもの、その気にさせられてしまう。死んだ男も同じように身繕いをして、顔に白布を掛けてから先生を呼びに行ったの」
「老外科医の診断では、チーフは脚立から落ちたとき右足を折っただけ。縄でひきつれた傷跡は消えないかも知れないが、命に別状はないって言われたわ。宏志の死亡診断書も、自殺で書いてくれた。もちろん変死だから、後で警察の事情聴取を受けたけど、その点はもう抜かりがないから大丈夫。本当に助かったわ」
Mは二人の話を聞きながら、その夜のピアニストの行動を想像して笑ってしまった。S・Mショーを見に行った医学生が、いつの間にかショーの終幕にキャステングされてしまったことが愉快だった。

「右足を折ったチーフは、そのまま一か月入院することになったわ。私も、する事がないので、付き添いとして付き合ったの。宏志のことも、正直言ってショックだったし、今後の身の振り方も考えなければならなかった。チーフはショックと喉の傷で、しばらく言葉が出なかったのよ」
ママは、真っ直ぐ伸ばした背筋の力を一瞬抜き、ナースが差し出したグラスに手を伸ばした。コニャックの甘い香りが、さっと広がる。

「チーフが入院して二週間ほどした夜のことよ。松葉杖を突いて歩けるようになったチーフと一緒に、院内を散歩したの。体は健康なのに、終日ベットに横になっていたから深夜になっても眠れないのね。三階の病室から階段を下りて、二階を散歩することにしたの。私たちはそこで、ナース独特の看護振りを見たのよ。凄まじいプロ意識だった」
静まり返った深夜の病院を、Mは思い描こうとした。しかし、これまで縁の無かった病棟をイメージすることはできない。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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