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1 命門学院(4)

急坂を降りきったところで右に曲がると、老人ホームに通じる道に出る。鬱蒼とした木々の影に見え隠れする、病院のような白いコンクリートの建物を見ながら走ると、特別養護老人ホームと記した門柱が現れた。
随所に植栽した広場の先に、広い車寄せを張り出した玄関があった。
車窓越しに見る玄関は静まり返っている。ドアボーイが出払ってしまったリゾートホテルの玄関ホールのようだ。左側の車寄せにMG・Fを止めたMは、先ず黒い幌を畳んだ。

「息苦しかったわね。二人乗ると雨が恨めしくなるわ」
開放感に満ちたMの声を、けたたましいエンジン音がかき消す。
門柱の脇を車体を斜めにして回り込んだ大型のオートバイが、右側の車寄せで急ブレーキをかけて止まった。
カワサキの400CCに跨った男は、赤いフルフェースのヘルメットを被っていた。紺のジャンパーの襟元から、白いシャツと臙脂のネクタイが覗いている。オートバイと不釣り合いな服装だった。
Mは値踏みするように男の姿を見てからドアを開け、車を降りた。もの珍しそうに建物を観察しながら、玄関の自動ドアの前まで来る。

「面会ですか」
背後から明るい声が呼び掛けた。振り返ると、オートバイから降りた男がヘルメットで乱れた髪を手で掻き撫でながら近付いて来る。
「やあ後輩、俺も中等部から命門学院に行ったんだ」
馴れ馴れしく祐子に話し掛ける。
百八十センチメートルほどはある、しなやかな身体の上で、物怖じしない機敏そうな若い顔が笑っている。
「随分時代が変わったもんだ。俺が中等部にいたときは、後輩みたいに可愛い子は二人といなかったもんだよ」
「一人は、いたってこと」
顔を伏せてしまった祐子の代わりにMが、青年の熱く燃える目を見据えて応えた。
「失礼しました。あまりに制服が懐かしかったので、勝手に話し掛けてしまいました。ごめんなさい」
いたずらを見咎められた子供のように、顔を赤くした青年が深々と頭を下げた。

「私はこういうものです。よろしければホームをご案内します」
差し出された名刺から、青年は天田といい、この市の福祉事務所のケースワーカーだということが知れた。
「私は夕刊ポストの記者のM。ぜひ、案内してください。でも、その前に今の質問に答えてくださる」
Mが笑顔を見せて応えた。日刊の地方紙の嘱託でも記者には違いなかった。
「新聞記者だったんですか。弱ったなあ。でも俺が悪いのだから答えますよ。中等部にいたころ、妹さんそっくりの美人が一人だけいました」
「好きだったの」
「もちろんです」
祐子の姉にされてしまったことをくすぐったく感じながら、Mは久しぶりに愉快な会話を笑顔で楽しんだ。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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