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3 演技者の記憶(6)

「感じるかいチーフ。本当の官能はまだこんなものではない。絶頂で死にたくなるほどの極楽なんだ。さあ、もっと、もっと尻を振って悶えろ。ぐっしょりと濡れた肉で、俺のペニスをくわえ込むんだ」
宏志の喘ぎ声が激しくチーフを誘う。頭をもたげた官能の波に乗って、チーフの尻が怪しく揺れた。
後ろ手に縛られたチーフの全身から、熱い汗が噴き出し、妖艶な肌が光り輝く。既に目を固く瞑り、チーフは一心に官能の糸を織り始めていた。客のことも意識から消え去って行った。

「さあ、尻を高く突き出せ。猛り立って喜ぶ俺のペニスを全身でくわえ込め」
股間に押し入った巨大な存在が、チーフの身体の隙間を埋めた。今までにない大きな満足感が股間一杯に拡がる。
宏志が腰を引き、また押し入れる度に、チーフの口から押し殺した喘ぎが洩れる。
体内で暴れる巨大な存在を捉えようと、チーフの全身が蠕動する。肉が、魂が、すべてが混在したまま中天に向かい、また、沈み込んでいく。大きな波が押しては返し、切れ目無く全身を翻弄する。もう少し、もう少しで、私は羽ばたく。そのまま、一切が滅びてしまっても良いと思った。

「ああ、チーフ。素敵だ。最高の気分だ。もう嘘もない。真実もない。一体になったお前と俺がいるだけだ。死のう。二人一緒にこのまま死のう」
「殺して。宏志、私を殺して。このまま、このままがいい」
官能の高まりの中で、死に誘う宏志の喘ぎが、いや増して官能を高める。
何回目かの絶頂に泣くチーフの耳元で、ひときわ高く宏志の叫びが響いた。

「死ねっ」

叫びと共に、チーフの股間で爆発が起こり、宏志が力いっぱい両足で脚立を蹴った。
官能の爆発に宙に浮いた身体が、直ぐさま落下した。チーフの恍惚とした混沌を首の痛みが追い払おうとしたが、瞬時に息が詰まり、全身の筋肉が緊張したまま意識が混濁した。
見守る客たちの頭上で、スポットライトを浴びた二つの裸身が揺れていた。
女の裸体に痙攣が走り、失禁し脱糞した。首を吊ったロープが切れ、後ろ手に緊縛された裸身が音もなくフロアに落下する。
男の裸身だけが、同様に長い時間痙攣を続けたまま、縄の先でユーモラスに揺れ続けていた。

死を誘った宏志は死に、死に誘われたチーフは、喉元に消えない傷跡だけを残した。
去年の春のことだ。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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