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2 オートバイ(5)

自室のドアを開け、明るいリビングに裸のまま出た。十分成長した女の裸身が、殺風景なリビングによく似合った。祐子は高く上がった形の良い尻を振って、バスルームに通じるドアを開けた。洗面所とトイレのドアを通り越して、広いバスルームに入りバスタブに湯を満たす。
ほんのりと湯気の立った温めの湯に、頭まで沈み込んだ所でドアホーンが鳴った。無視したまま湯に浸かっていたが、音はやまない。やまないどころか連続してホーンを押し続けている。強引な意志の力が、ホーンの音にまで込められているようだ。
仕方なく祐子は湯から上がり、洗面所の壁に掛けた紺のバスローブを着てリビングに出た。
電話と兼用のセキュリティーセットの受話器を取る。何も言わないうちに掠れた大声が飛び込んできた。

「祐子、俺だ、入れてくれ」
バイクの興奮した声が耳に響いた。知り合って一年ほどになり、家も近かったが、バイクが訪ねて来たのはこれが初めてだった。
「待って、すぐ開けるわ」
答えてからバスローブ姿が気になったが、構わず玄関に行き錠を開け、ドアチェーンも外した。不思議に一人だけでいる身の不安は感じなかった。
ドアを大きく開けると車椅子が入って来た。室内で見る車椅子は思ったより大きい。広い玄関が手狭に見えた。
「中まで入って」と呼び掛け、紫檀の衝立をずらす。
「車椅子で汚れるからここでいい。押し掛けて来て悪いとは思うが、天田の言ったことを誤解されたくなかったんだ」
「話す前に中に入って、汚れても構わないから」
言葉を続けながらバイクの後ろに回り、車椅子を押してリビングのテーブルの前に着けた。

「あれ、風呂から出たところなのか。悪いタイミングで済まなかった」
祐子のバスローブ姿に、やっと気付いたバイクが、少しも済まなそうではない声で言った。
「風呂上がりではなく、入浴中に呼び出されたのよ」
「それは悪いことをしてしまった。俺は急がないからもう一度風呂に入ってこいよ。湯冷めするといけない」
祐子に会えたことで安心した様子のバイクが、さっきまでとは打って変わり、ゆったりとした口調で入浴を勧める。

「天田さんと話があったんじゃないの。ずっとオートバイが置いてあるわ」
「あいつは追い返した。でも、きっとまた来る。しかし、ここにいるとは考えもつかない」
「それは甘いわ。バイクがそう思うだけで、誰だって考えつく」
「天田には、そんな頭はない。早く風呂に入ってこいよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて入ってくるわ。でも私、長湯よ」
祐子は楽しそうに笑って、バイクのためにキッチンに行き、コーラとグラスを持って来た。
「俺はコーラは飲まない」
真剣な顔で断言するバイクにまた笑い掛け、冷蔵庫から取ってきた缶ビールをコーラの隣に置いた。
「同じ呑むなら焼酎よりビールの方がいいのよ。今日はあまり呑んでいないようだから目を瞑るわ」
口を歪めて苦い顔をするバイクに、片目を瞑って見せてから、祐子はバスルームに戻った。ドアに錠を下ろす気にもならず、ローブを脱いで若々しい裸身を一気に湯に沈めた。
広いリビングに一人残ったバイクは、卓球台ほどもありそうなテーブルの隅に置かれたビールに手を伸ばした。

缶の栓を開け、グラスに注がず、直接缶に口を付けて一口飲んだ。
苦い水が喉元から食道を下っていく。味気ない酒だった。やはり喉を焼く刺激が酒のすべてだった。そして、すべてを忘れさせてくれる強烈な酔い。
二口目のビールを含み、じっとコーラの缶を見つめた。もう、気にならなくなったはずだったが、祐子に説明しようとしていた事実が、缶コーラに染みついた憎悪を思い出させた。この小さな缶が一切を奪っていったのだ。
バイクは苦い水を飲み下しながら五年前の夏に思いを馳せた。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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