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9.巨樹は倒れるままに(4)

十メートル程歩くと、柱の陰になっていた位置に、白いダウンジャケットを着た修太が見えた。右手に黒い革鞭を下げた修太の前に、痩せた裸身が石油ストーブの赤い火を浴びてうずくまっている。
光男の裸身を認め、Mが大きく目を見開く。
鞭音に怯えて身体を丸くしてうずくまる光男は、Mと同様素っ裸だった。細い腕を後ろ手にされ、手枷で縛られている。両足首を繋いだ足枷の鎖の中央からは、別の鎖が真っ直ぐ股間へ延びている。
遠い過去の記憶が甦り、思わずMは尻をすぼめてしまった。

「懐かしいかい。八年前に、毎日Mを責めていた拘束具だよ。辛さを思い出して尻の穴が震えるだろう。それとも、Mにとっては喜びかな」
横に立ったピアニストが冷たい声で言った。
「なぜ光男をこんな目に遭わすの。なぜ光男がここにいるの」
Mが震える声で叫んだ。凍り付いた鋸屋根の天井で、悲しい叫びが反響する。
「理事長がMを呼んだからさ。僕はこうなることを予想していた。理事長は迷っていたからね。決断を下すには、Mの強さが必要になったのさ。だから、Mと一緒に光男を理事長に会わせようと思う。Mのように破れかぶれなほど強い性ではなく、醜いほど弱い性があることを理事長に知って欲しいんだ。醜い現実を見せないと、理事長が判断を間違う恐れがある。光男ならちょうどいい。ペニスは大きいし、官能を求める姿勢はMと同じようだ。しかし、誰の目にも光男は醜く映るだろう。夕べ、山地まで行って連れて来ておいた甲斐があった。二人一緒に理事長と会ってもらう。いいね」

ピアニストのたくらみは最低だった。個人が個人として向かい合うときに高まる官能が、現実の一部に過ぎないことを理解できないのだ。自分で作った仕組みの中でないと、何も信用することができない、弱々しい姿が目に浮かぶ。だからピアニストは、現実を直視することなどできはしない。Mは個人としての官能の高まりから、夢とは違う現実を見てきた。どんな夢も、官能の極みからは色褪せて見える。すべての夢を取り去った場所で、ひたすら自分の人格と責任だけで対処することが現実に生きることだと思う。ピアニストは光男の裸身を過酷に拘束し、その醜さをMが追い求める官能と対比させようとしている。いっさいがピアニストの頭の中で組み立てられた仕組みに過ぎない。幼稚すぎて笑う気にもなれなかった。

宣言するように声を整え、Mはきっぱりと答える。
「光男の自由意志がどこにも反映されていないわ。私はすべてを自分の責任で選ぶ。暴力的に曳き出される光男とは違う。ピアニスト、恥を知りなさい」
冷気の中でピアニストの顔が赤く染まった。しかし、すんでの所で踏みとどまり、邪悪な言葉を紡ぎ出す。
「確かにMの言うとおりだ。光男を戒めている拘束具はMのものなのだからね。Mが身に着けて理事長に会うべきだ。そうだ、Mの真実の姿を理事長に見てもらおう」
Mの脳裏を、拘束具に戒められた悲惨な裸身がよぎる。八年前の若々しい身体だった。しかし、もう二十七歳の肉体ではない。あの時の官能の高まりが、現在も得られる保証はない。
ピアニストの意地悪い声が追い打ちを掛ける。

「責任と人格が決めるんだろう、M。そのMが、八年前に自分が演じたことを、今になって拒絶する道理がないよね」
甘えきったピアニストの論理がMの怒りに火を点ける。寒さに震える裸身が引き締まり、胸を張って直立した。
「いいわ、ピアニスト。私を縛りなさい」
はっきりとMが答えた。
「修太、光男の拘束具を外してくれ」
ピアニストが修太に命じ、銀色の小さな鍵を手渡す。修太は黙って鍵を受け取り、うずくまった光男の背後に回る。右手の手錠を外すと、大きく鎖を鳴らして光男が叫ぶ。
「ダメだよ、M。この責めは辛すぎる。Mが惨めになってしまう」
光男の叫びを無視して、修太が機械的に戒めを解く。啜り泣く光男の尻を高く掲げさせ、最後に肛門に残った装具に鍵を入れ、尻の穴の中で開いた傘を閉じる。無造作に金属棒を引き抜くと、棒の先からうっすらと白い湯気が立った。陰惨な光景だった。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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