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8.もう一つの再会(3)

「市長さんにはもう聞いていただいたのだが、問題は鉱山の町にコスモス事業団が建設する三千人を収容する特別養護老人ホームのことなのだ。この巨大な老人ホームが国の認可を受けるに当たって、厚生事務次官が影で動いたという噂がある。その事務次官が、収賄容疑で今日中に逮捕される。昨夜遅く、親しくしている高級官僚から連絡があったのだ。もちろん贈賄側はコスモス事業団ではない。営利目的の老人ホーム建設を全国規模で展開しようともくろんだ、高齢者福祉では新興のシルバーグループの理事長の仕業だ。市長さんから聞いたコスモス事業団の、高邁な目的も分からないではない。確かにシルバーグループとは違い、コスモスは金儲けが目的ではないことははっきりしている。しかし、厚生事務次官の逮捕の影響は深甚なものになると思う。いったん政治の醜さが世間にこぼれ落ちれば、後は味噌も糞も一緒だ。目的が違うとほざいてみても、誰も聞く耳など持ちはしない」
じっと聞いていたMが口を挟む。
「私も福祉の雑誌に携わっているから、シルバーグループの黒い噂は聞いていたわ。また、独自の展開を見せるコスモス事業団にも興味があって取材にも来た。しかし、助役さんが何故、それを問題にするのか良く理解できない。鉱山の町は特別養護老人ホームの誘致を決定していたのでしょう。町の利益を考えて決定した事実を、検討し直そうとでもいうのかしら」

町長の顔に苦渋の表情が浮かんだ。市長がMの言葉に同意するように、大きく姿勢を変えた。町長が話を続ける。
「確かにコスモス事業団は市を始め、この地域の発展に欠かせない組織だ。正直に言えば、私の町も人口の四分の三もの人を受け入れることに魅力を感じた。国の補助金と一緒に、可処分所得に恵まれた老人が町に入ってくる。金の管理は、ホームの運営に参加する町が握れるだろう。新しい雇用の創出にもなる。確かに甘い夢を見させてもらった。しかし、私は政治家だ。泥まみれになるのが分かっているプロジェクトに町を関係させることはできない」

「しばらく下を向いていれば嵐も通り過ぎる。甘い夢が現実になるかも知れない。町長さんは過剰に反応しているのではないか」
鋭い口調で、市長が町長に翻意を促した。
「市長さんは、新しいプロジェクトを抱えていないからそう言える。しかし、町はその渦中にある。かつて、鉱毒事件という大スキャンダルと共に、私の町からは緑が消え失せてしまった。滅んでしまった自然がようやく甦り、営巣を始めたイヌワシの雛の誕生が、町民にやっと希望を与えてくれた。その町民が、醜いスキャンダルを許す道理がないのだ。私は、今日中に市役所の記者クラブで誘致撤回の記者会見を開くつもりだ。だが、その前に、ぜひとも理事長さんに会っておきたい。不義理をするからには、それなりの礼は尽くしたいと思う。Mさん、理事長さんの居場所を教えてくれ」

自分の決断を確認するように厳しく口を閉じた町長が、Mの目を見つめて頭を下げた。
まさに裏切りといえる町長の決断だが、Mはコスモスの人間ではない。冷静に考えれば、政治の醜さにまみれたような町長の決断が正しいと思う。長年積み重ねてきたコスモスの事業が軌道に乗っている市には、それほどの痛みはない。しかし、新しく巨大すぎるプロジェクトを抱えた鉱山の町は、全国的な非難の激浪にもみくちゃにされ、転覆は免れないと思う。誰が考えても、三千人を収容する老人ホームはうさんくさい。理事長が現実に目を向けるのに、ちょうど良い機会とさえ思えた。

悪化しているはずの理事長の様態が気に掛かったが、それだからこそ大切な機会なのだとMは思う。
「お話は分かりました。私も理事長にお会いになるべきだと思います。すぐご案内しましょう」
聞いていた町長の顔がエネルギッシュに輝き始め、市長の肩が落ちた。
「市長さん、お聞きの通りだ。私が戻ってきたら、市の記者クラブで特別養護老人ホーム誘致撤回の会見をさせていただきたい」
「配慮しましょう」
押し殺した声で市長が答えた。
立ち上がって深々と市長に一礼した町長は、Mと連れだって足早に市長室を後にした。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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