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8.もう一つの再会(2)

Mは大股に市役所の玄関に入っていった。ちょうど目の前のエレベーターが開き、役所の制服を着た数人の男が乗り込むところだった。Mは辺りを見回してからエレベーターに向かう。
「どちらへ」
扉の停止ボタンを押して、待っていてくれた若い職員が尋ねる。
「市長室へ」
短く答えると三階のボタンが押され、静かにドアが閉まった。
三階に着くまで、同乗した職員たちは押し殺したように無言だった。
Mは服装が気になったが、ダウンジャケットを着ているので、身体のラインに見入られているはずはなかった。市長室を訪ねる客の前では私語を慎むだけらしい。Mの知らない権力の素顔が、ちらっとのぞいたような気がする。

三階で開いたエレベーターのすぐ前が市長室だった。開け放たれた自動ドアの中で、三人の秘書課員が机を並べて執務している。室に入っていったMの姿を全員が一斉に目を上げて見た。訝しげな表情は誰も浮かべていない。良く教育が行き届いている。
「Mです。助役さんに呼ばれて来ました」
さっと椅子を立って来た美しい容姿の女性に短く言った。幼さの残る顔に、初めて怪訝そうな表情が浮かぶ。
「助役にご面会ですか」
当惑した表情を浮かべる秘書の背後から、年配の女性が声を掛ける。
「町長さんのことよ。お通しして」

女性秘書に案内されてMは市長室に入った。北と東に大きく窓を取った市長室は狭く感じられた。十畳ほどの広さにしか見えない。
南に向けられた執務机の前に、ゆったりとした応接セットが置かれ、二人の男が向かい合って座っている。Mの入って来た気配を察し、背を向けていた大柄な男が立ち上がって振り向く。

「Mさん、久しぶりだ。よく来てくれました。それにしても、相変わらずお美しい」
町長になっても助役の時と同様、紺色のスーツを着た町長が右手を伸ばした。そっと出したMの右手を温かく大きな手が握り締める。足の先まで懐かしさが伝わっていく。
「助役さんも変わらないわ。怖いくらい堂々としている」
「今は町長さんだよ」
ソファーにゆったり座った初老の男が、にこやかに声を掛けた。ライトグレーの見るからに仕立ての良いスーツに、小柄で健康そうな身体を包んでいる。

「市長さん、こちらはM。私が町長になるときにずいぶん世話になった」
町長の紹介の言葉を聞いたMの頬が赤く染まった。政治が支配する世界の、独特の物言いが恥ずかしくてならない。
「さあ、掛けてください。あまり時間もない。話を続けましょう」
市長が隣の席を勧めながら、政治家の声に戻って言った。
時間がないといった市長の言葉に助けられ、Mはダウンジャケットを着たままソファーに腰を下ろした。大きく足を組むと、短すぎるワンピースの裾に二人の男の視線が集まるような、くすぐったさを感じる。
町長がまぶしそうにMを見て、話し始める。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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