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6.ドーム館の黄昏(4)

「本当に済まないが、私は忙しい。もう、それほど時間も残されていない。成すべきことをしておかねばならない。明日から私は鋸屋根工場に移る。こんな浮き世離れした場所から事業の指揮は執れない。何よりも緊張感が大切なのだ。鉱山の町に計画した、三千人を収容する特別養護老人ホームの建設が国の認可になったのだ。建設費のほとんどを国が面倒見てくれる。鼻薬を嗅がせておいた厚生事務次官が上手に事を運んでくれた。さすがは高級官僚だ。後は、コスモスの運営の如何にかかっている。この地域の再開発も思ったより早く進むだろう。早くレールを敷いておかねば、後が気掛かりでならない。私は眠る間もないほど忙しいのだよ」
鉱山の町という言葉がMの耳を打つ。鉱毒で荒廃してしまった自然の回復も進み、イヌワシが営巣を始めたという人口四千人の町に、三千人を収容する老人ホームを建てると理事長は言う。まるで現代の姥捨て山だと思った。

「どんな必要があるというのです」
静かに言って立ち上がったMは、理事長に近付いていった。
「この地域にまったく新しい文化を創造するための布石なのだ。後ろばかり振り返っている頑迷な老人は、自然のまっただ中で朽ち果ててもらう。このまま何もせず、増え続ける老人たちと心中するわけにはいかない」
「理事長のように、前ばかり見ている少年のような高齢者もいるわ」
「私はもうじき死ぬ」
「答えになっていないし、死は誰をも襲うものです。自然の中に邪悪な人の驕りを持ち込んでも、虚しさが募るばかりです。さあ、一緒に自然のままの現実を見ましょう」
Mの裸身が理事長の背後に回り、前に回した手でカシミヤで織った柔らかなスーツを脱がした。そのままシャツのボタンを外し始める。

「悪いが、こんなことをしている時間はない。Mは飽きるまでここに住んでくれていいのだ。いいか、飽きるまでだ。一生でも構わない。私は悪いようにはしないと言った。信じてくれ」
「私が信じるのは、今という時間と、有るがままの現実だけ」
理事長の耳に寄せたMの口から、喘ぎに似た声が漏れた。手の動きを止めずにシャツのボタンを外し、ズボンのファスナーを下ろす。
「仕方がない。今夜だけは許そう。しかし後はない」
自分に言い聞かすように理事長は言って、自分でうなずく。

痩身の裸像に寄り添ったMはさり気なく左手を伸ばし、股間に垂れ下がったペニスを強く握った。理事長の冷たいペニスに、Mの掌の温かい感触が広がっていくのが分かる。理事長はMの手に曳かれるまま紫檀のテーブルの前まで進んだ。
Mはペニスを握ったままテーブルに上り、闇の中でじっと理事長の目を見つめてから手を離す。静かに屈み込んで、尻をテーブルに着けた。長い両足を十分に伸ばし、大きく股間を広げて仰向けに横になった。テーブルの前に立つ理事長が、無言で裸身を見下ろしている。

「相変わらず美しい。十分に成熟した肉体だ。しかし私には時間がない。せっかく空けた時間だが、ここに何の希望があるのだろう」
「後ろ手に厳しく縛り上げてください」
問いには答えず、理事長を見上げたままMが頼んだ。
見上げるMの目に、ドームいっぱいに広がる星空が映った。星空に紛れた理事長の黒いシルエットの中で、白い歯が光った。
Mの裸身に笑い声が落ちる。
「ハハハハ、縛りたければ自分で縛るがいい。そんなことをしている暇は、私にはない」
素っ気ない理事長の声で、Mはテーブルから立ち上がった。黙って壁際まで行き、部屋の照明を全部点灯する。まぶしい光が部屋中に満ち、均整のとれた豊かな裸身と、やせ細って大きな手術痕が走る初老の裸身を照らしだした。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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