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11 海へ(4)

「詳しく聞かせてください」
覚悟を決めて、しっかりとした声で尋ねると「詳しいことなんか知らないわよ。君の両親のすることなんだから、私が知っているわけがないでしょう」と突き放す。
「それでは話になりませんよ。知っていることだけでいいんです。あなたの想像でも構わない」
話すことを整理するように、首輪のはまったうなじを傾けたまま目をつぶっていたMが、静かな口調で言った。

「ピアニストは、前の事件のことは知っているわね」
僕は黙ってうなずいた。彼女の過去が苦しかった。
「あのとき、築三百年の屋敷の主はカメラマンで、そのカメラマンが崖から海に身を投げて死んだのよ」
彼女に似合わない混乱した話し方の中に、彼女の特別な過去が込められているのだと思った。
「君の両親は明日、私をその断崖に連れて行くの。きっと、この姿のまま、私を海に突き落とすわ。これが私の知っているすべて」

何か、はぐらかされたような感じだった。
父と母と彼女が明日、日本海に行くのだという。確かにみんなが知っている事件の舞台になった日本海に、その当事者を交えて行くというのは尋常ではない。しかし、その同じ舞台で、両親がMを海に突き落とすという話しもまた、突飛すぎた。
「そこで相談というのはね、明日、ピアニストにも一緒に行ってもらいたいという事なの。歯医者さんたちが罪を犯さないように、私をガードしてもらいたいのよ」

変な成り行きになって来たと僕は思った。しかし、筋書きは完璧に出来上がっていて、僕が引く逃げ道はなかった。たとえ一瞬でも、両親がMを殺すという想定を認めてしまった僕の負けだ。
「一緒に行きますよ。ほかに方法はない」
「ありがとう。ピアニストはやっぱり優しいのね。でも、両親がだめと言っても来てくれなければ大変なことになるのよ。そして、明日の朝は多分、君が寝ているうちに早く発つと思うの。眠っちゃだめよ。よく見張っていて、必ず一緒に行くのよ。きっと、当日の私の格好を見れば、私の言ったことが正しかったと分かるわ。素っ裸で手枷足枷をはめられ、肛門に金属棒を突っ込まれたままの姿で連れ出されるはずよ」
妙にねじ曲がっていく彼女の論理は聞きたくなかったが、僕は完全に出口なしだった。

「じゃあ、私は帰るから。寝ないで待っていてね」と言って彼女は腰を上げる。「僕が送っていきますよ」
「だめ。ピアニストはドジだから、きっと両親を起こしてしまうわ。その場で計画が変わり、君の目の前で殺されてしまうかも知れない」
「そんなことはないでしょう」
「いや、分からないわ。それよりピアニストはピアノを弾いてよ。チチとハハは意外に君のピアノが好きなのよ、きっと安心して眠りこけるわ。ぜひ、そうしてちょうだい」
仕方なく僕は、彼女をまた抱え上げ、窓からそっと地面に下ろした。

11 海へ(3)

ヒーターを入れた僕の部屋は、急速に温まっていく。
明かりはつけない。窓から射す青い月明かりが、部屋の中をぼんやりと照らし出している。窓際のカーペットの上で、月光を浴びた白い裸身が横座りになっている。

「明後日はもう都会に行くのね」
下を向いたままMが、妙にしんみりと口を切った。
「できれば、あなたに一緒に来てもらいたいと思っています。でも、異様な格好をしたあなたでは嫌だ。普通のあなた、当たり前のあなたと一緒に過ごしたい」
「今夜のことを言っているの。それは、だめみたいね。歯医者さんの執念のこもった肛門栓は、鍵がなければ抜けないのよ」
「そういう異様な言葉も、聞きたくないんです」
「ピアニストは、まだ大人の性が分からないのね。きっとナイーヴ過ぎるのかも知れない。悪いことではないけれど、もっと多くの事を知ることも大事よ」

「あなたは、僕の好みの官能を高めることも出来るはずです」
「そうね。今回は優先順位が違ったけれど、そういう事も考えられなくはなかったわね」
「僕と都会に行ってくれませんか。あなたなら都会でも十分生活できるし、僕もバイトをします。本当の官能の高まりを教えてください」
「官能は教えてもらって高まるわけじゃあないわ。自分で高めていくものなの。君の両親を見て見ればいいわ。誰が何と言ったって、自分たちの高まりの世界を離そうとはしなかったわ」

「どうしても、僕を愛してはくれないのですね」
「そういう問題じゃあないでしょう。私はピアニストを愛しているわ。でも、好みに合わない性を押し付けられるのはごめんなのよ」
「じゃあ、今夜はどうして訪ねて来てくれたんですか」
「だから、相談したいことがあるって言ったでしょう」

Mはまたしばらく沈黙した。背後から浴びた月光で滑らかな裸身が青く輝き、まるで夜光虫と遊ぶ人魚みたいだった。後ろ手錠に緊縛され、肛門栓を避けるように横座りに座る全裸のシルエットが、陰惨な現実を越えて、僕を優美な夢へと誘う。

「実は、君の両親が私を殺すことにしたのよ」
「えっ」と言ったまま、僕は絶句した。
「はははっはっはは、そんなことないですよ」
「本当にそう思う」
厳しい声が部屋中に響き、驚いて見つめたシルエットの中で、彼女の大きく見開いた目が一瞬赤く光った。
「ええ、多分、」と、口の中でもごもごと呟きながら、こんな真夜中に首輪に繋がれたロープを噛み切ってまでやって来た彼女と、日毎憔悴し、尖りきっていく両親の顔とを思い浮かべてみた。

ずいぶん長い時間考えてみたが、絶対に有り得ない事とは思えないような気になってしまった。
両親には申し訳なかったが、常軌を逸しすぎた、追い込まれた状況に身を置いてしまった二人が、短絡的に局面の打開を考える場合も有ると思ったのだ。
Mの言うように性には何だって有りなのだし、両親とMの間には性以外の関係はなかったのだから。

11 海へ(2)

「早く下に降りて抱え上げてよ。私はこんな格好なんだから、一人では上がれないの」
一瞬僕は、ぽかんと口を開けたままでいた。窓から客を出迎えに行くなんて、考えたこともなかった。まったく彼女のすることはすべて、常識を外れている。

威張るように言う彼女の言葉に呆れながらも、僕は窓を乗り越え、素っ裸のまま地面に降りた。
本当に久しぶりに、素っ裸の僕のすぐ前に、素っ裸の彼女が立っている。あの雪の夜以来のことだった。僕はうれしくなり、大きく深呼吸した。

「あれ、ピアニストは裸で寝る習慣なの。いい習慣だね。でもペニスは小さいままなんだね」
場所柄を考えない彼女の言葉を無視して両手を広げ、中腰のままのMを抱きしめた。
冷たい肌の感触が心地よく僕の裸身に張り付く。即座に勃起したペニスを振り立て、腰を沈め、中腰になった彼女の陰部へと突き立てる。行きすぎたペニスの先が、肛門に挿入された金属棒から延びる冷たい鎖に触れた。ペニスが痛み、異様な現実がやっと、僕を包み込んだ。

ぎこちなく腰を引いて身体を立て直した。さりげなくそっと、うなじに顔を埋めようとすると、首に巻かれた首輪が目に入った。シェパードのケンに付けられていた皮の首輪が、ほっそりとした首にはめられていた。首輪から伸びた紐が途中で切れ、足元へぶら下がっている。

「歯で食いちぎって来たのよ。夜は後ろ手錠にされるから、歯しか使えないのよね」
僕の視線に気が付いたMが、素っ気なく言った。
身を引いて後ろに下がり、全身を見る。ケンの首輪の下に豊かな乳房があり、ツンと立った二つの乳首が並んでいる。なだらかな肩先が見えるだけで、胸を張ったままの両手は背中に回されていた。背後に回って見ると、ちょうど尻の上で、手錠が後ろ手に掛けられていた。これでは、窓から上がれないどころか、横になることさえ大変なようだ。平気な顔をしている、彼女の神経を疑いたくなってしまう。
妙に白けた気分になったが、黙って頷き、尻に手を回して抱き上げる。剥き出しの尻の割れ目から延びる鎖が邪魔で、二回ほど抱く位置を変えた。

彼女を抱き上げるのも雪の日以来のことだ。しかし今夜は、それほどヒロイックな気分にはなれなかった。シチュエーションが違うだけではなく、何か、僕の身体の中で、異常な状況を拒絶する気持ちが芽生えたせいらしかった。
全身に力を込めてMの身体を窓に押し上げると、鈍い音がして、彼女は部屋の床に落ちた。

11 海へ(1)

都会へ移り住む準備はすべて、僕だけでやった。

父も母も、Mとの性生活だけにかまけ、僕の学業ばかりでなく、毎日の暮らしにも構わなくなっていたのだ。恐らくこの三週間は、診療所も開けられることがなかったはずだ。この間、たまに一緒に囲む食卓などで、四人が揃うことはあったが、会話は弾まなかった。

何かが狂っているとしか思えなかったが、食卓のMは裸のままだった。
手鎖に繋がれ、足枷を付け、肛門から足枷の中央へと延びた短い鎖が、彼女を常に中腰にさせていた。椅子に掛けるときの彼女は、慎重にゆっくりと腰を下ろし、肛門から突き出た金属棒を、自分の体重で肛門の奥へと呑み込むようにして座っていた。そんな状況の中で、会話が進むはずもない。ただ、会う度に光を増して眩しくなる、場違いな裸身の美しさだけが怪しく魅力的だった。

それに引き替え、父と母の荒廃振りは、目を見張るものがあった。二人とも仲睦まじいことは結構なのだが、その異様なほどの痩せ方と憔悴の深まりは、目を被いたくなるくらいのものだった。確実に、何か不吉なものが進行している気配が感じ取られたが、それが何なのかは皆目分からなかった。
春が深まり、温かくなるに連れて一層、僕の周りの一切が冷たく寒く荒廃の度を深めて行くようだった。白々と輝きを加えていくMの裸身さえ、寒々とした痛みのような感覚を増幅させていた。


ヒーターも要らないほどに暖かな宵だった。
都会への旅立ちを三日後に控え、気持ちの高ぶりに眠れぬまま、ベットから起き上がり窓際へと立って行った。
僅かにカーテンを開け、外の闇をうかがう。
相変わらず裸のままのケヤキの梢越しに、暖かそうなまん丸の月が掛かっている。窓を開ければ、春の匂いが漂ってくるような、心優しくなる、懐かしい感情が足の先からこみ上げて来た。

幼いころ絵本で見たような、ほのぼのとした風景に漂わせていた視線の隅に、月明かりを浴びた蒼い影がかすめた。ぎょっとして、窓ガラスに額をぶつけて影の方を見ると、中腰になって足枷を引きずり、よちよちと歩いて来るMの裸身が、月の光の中に浮かび上がった。
慌てて窓を一杯に開き、身を乗り出すと、冷たい外気が全身を打った。まだそれほど暖かいわけではない。

窓の下まで来たMは、肩で息をしながら僕の顔を見上げ、かすれたアルトで訴えた。
「部屋に入れてちょうだい。ちょっと相談したいことがあるの。いいでしょう」
もちろん構いはしないが、いつだって彼女の行為は唐突で、僕をどぎまぎさせる。

10 囚われ人(5)

「ピアニストはまだ、性の本質が分かっていないみたいね。自由だろうが不自由だろうが、性の喜びには関係ないのよね」
「でも、あなたにとって性の喜びがあるとは思えない」
「やっぱりピアニストの視野が狭いとしか言えないわね。性の喜びには何でも有りって言ったでしょう。ダイレクトに、ペニスを擦り付けて得られる喜びもあれば、想像力の高まりの中で得られる喜びもあるのよ」
「一人の方が想像力は高まりますよ」
「君のマスターベーションのことかな。確かにそういう面もあるけど、やはり人と人との関係の中にしか、本当の官能の高まりはないと理解した方が正しいのよ。多分煩わしくもあり、傷つくこともあるけれども、人と人とのせめぎ合いがあって初めて、性は淫らでおどろおどろしく魅力的なものになるものよ」

「あなたの鎖に繋がれた姿や、肛門に差し込まれた異物が理想的な性とは思えないな」
「ただの好みの問題よ。私は刺激的な方が好き。ただそれだけ。別に無理強いはしないわ。でも、私を哀れんだり恥ずかしいと思ったりはして欲しくはないの」
「あなたの言うことには、やはり無理がある。できることなら、僕は、大好きなあなたと、ごく普通に、愛し合いたいと願っているんです」
僕は頬を赤く染め、猛り立ったペニスに途惑いながら、しかし、はっきりと言ったのだ。
「そう、無理かな。でもいいや。鎖に繋がれた私の姿をよく見ておいて。そして、官能に燃え立つ身体をよく記憶しておいて欲しいの。私は誰にも独占されはしない。ただ、全身で楽しめる環境を求めているの」
Mが言い切ったとき、助けを求める父の声が彼女の名を呼んだ。
反射的に、鎖を鳴らしてMが急ぐ。思うようにならない父のペニスを、口に含んで甦らそうというのだ。

はっきりとMに問い掛けた、求愛に対する答えはなかった。
僕は分からない。息子を前に性の喜びを追う両親の姿は、考えようによっては微笑ましくもあり、僕が自立さえすれば見過ごせることだとも思うが、それを手助けするMの異様な姿は、とうてい容認できるものではなかった。
それが、官能のプリマのボランティアイズムなのか。僕には理解できない。なぜ彼女は僕に、二人だけの普通の性を与えてくれないのか。
寄る辺ない愚痴ばかりがつのり、微かに憎しみが芽生えた。
蔵屋敷の中で絡み合う素っ裸の三人を後に、出口の所まで行って振り返った、服を着た僕の目に、荒廃しきった光景だけが白々と寒く映った。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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