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12.ひとすじの道(2)

睦月はトレーラーの運転席から外の見張りを続けていた。配置について五分で退屈してしまったほど、周囲には異常がない。楽屋口に入って来る人影はおろか行き交う車両の気配さえ疎らだった。見上げる位置にある道路から半地下になった楽屋口まで、弧を描いて下るスロープの奥に二台のトレーラーは止まっている。頭上から落ちる外灯の光を浴びて周囲は明るい。運転席だけが陰になっていた。不意にスロープの曲がり鼻に人影が現れた。睦月はぎょっとして助手席に置いた拳銃に左手を伸ばす。重い手作りの拳銃を右手に持ち替え、じっと前方を見つめた。人影はスロープの壁に背中をつけて三十メートル離れたトレーラーをうかがっている。水銀灯の青い光と、ナトリウム灯のオレンジ色の光が混じり合って侵入者を余さず照らし出す。眠そうだった睦月の目が大きく見開かれた。侵入者は素っ裸だった。それも女だ。続いてもう一人、素っ裸の女が現れた。互いに五メートルの間隔を開けて近寄ってくる。睦月の口元に笑みがこぼれた。弥生とMに間違いなかった。無防備に股間を開き、尻を壁につけて進んでくる姿が滑稽でならない。閉め切った運転席に笑い声が満ちた。人の気配を察したらしく、二人が前後してしゃがみ込んだ。乳房の横に吊ったフォルスターに手を伸ばして前方をうかがう。路面に片膝を突いた股間が大きく割れ、外灯の光が黒々とした陰毛を照らし出した。睦月は笑いをこらえて運転席の窓を開け、二人に手招きした。

「とうに懲罰期間は終わっているわ。よっぽど裸が好きなのね」
運転席の下に近寄ってきた二人の頭上に、睦月が冷やかしの言葉を落とした。
「みんな無事なの。異常はないのね」
冷やかしを無視して、弥生が切迫した口調で問い掛けた。答えの代わりに問いが戻ってくる。
「ピアニストはどこにいるの」
仕方なく弥生がうなずく。いらだちが込み上げてきたが、何としても欲しい情報は睦月が握っていた。妥協するのは弥生の方だ。

「ピアニストは小ホールの横にいるわ。足を負傷したのよ。みんなはどうしたの、無事でいるの」
再び弥生が問い掛けると、睦月が眉をしかめた。
「無事といえば無事ね。弥生たちが帰ってきたから強奪班も全員生還したわ。収容班と離脱班は言うまでもない。突入班の戦果は大ホールにいる修太に聞くといいわ。そこの通用口から中に入れる」
答えに結論はなかった。だが、計画の大部分が成功したことは二人にも知れた。睦月は口をつぐんで背後の通用口を指し示している。もうとりつく島もない。思わせぶりな言葉が、小さな喜びと大きな不安を二人に残した。Mと弥生は心急くまま、示された通用口に急いだ。玄関ドアほどの鉄扉を開けると温かな空気が二人の裸身を包んだ。寒風に晒されてきた素肌が喜びに震える。広い舞台ふところは暗い。非常灯のぼんやりした明かりだけが足元を照らしている。高さ三メートルの大道具の向こう側から光が洩れている。Mと弥生は舞台の上手に回り込んでいった。静まり返った大ホールの下手エプロンに小さなテーブルが置かれていた。テーブルの上ではランタンが輝いている。明るい光が白い髭もじゃの顔を照らし出していた。Mと弥生が一斉に叫ぶ。

「オシショウ」
呼び掛けにうなずき、折り畳み式のパイプ椅子に座っていたオシショウが立ち上がった。
「やっと来たか。ずいぶん遅れたが、見事な裸身が舞台に映える。みんなも待ちかねているぞ。さあ、こっちに来なさい」
ステージ奥に目をやってからオシショウが二人を招いた。Mと弥生の位置からはステージの奥が見えない。だが、言葉を聞いてほっとした二人の目が輝きだす。修太や極月、霜月たちに早く会いたいと思い、足が早まる。

「そこまででよい」
突然、オシショウの険しい声が響いた。ベレッタを握った右手を挙げ、二人の顔に向けて順番に照準をつける。

ズガーン

いきなり銃声が響いた。二人の足元の床に銃弾がめり込む。驚いて立ちすくんだ二人の手首に、背後から飛鳥が手錠をはめた。再び静寂が戻る。舞台に集まっているはずのメンバーたちの反応はなかった。
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