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9.巨樹は倒れるままに(6)

素っ裸の光男に鎖を曳かれ、豊かな尻を左右に振って、Mはヨチヨチ歩きで前に進む。屈辱で全身が赤く染まった。きっと、それぞれの時代に応じた官能があり、人はそれを選び取るのだとMは思った。惨めな裸身を理事長に晒すことに不安が掠める。
しかし、もう後に引くことはできなかった。

昔も今も屈辱と恥辱にまみれながら、現実をつかみ取らねばならないのだ。決して夢の中で喘ぐわけにはいかないとMは思う。
無様な歩みを止め、Mは上体を上げた。股間の鎖が延びきり、尻に激痛が走る。官能の炎が一瞬、暗闇の中で燃え上がった気がした。
鎖を引かれて上げた目に、理事長のいる部屋に続くドアが映った。

「ピアニスト、遅いじゃないか。Mはどうした」
工場に続くドアから入ってきたピアニストを、理事長が叱責した。
「遅れて済みません。Mの身支度に手間取りました」
神妙な声で弁解し、ピアニストは足早に車椅子に座った理事長の後ろに回る。チハルに代わってハンドルを握り、背もたれに点滴セットを備え付けた車椅子を前進させる。開け放したドアのはるか手前で、ゆっくり立ち止まった。

「修太、Mをお通ししなさい」
ドアに向かってピアニストが低い声で命じた。
客を迎えにドアに急いだチハルの足が、凍り付いたように止まる。冷気が押し寄せるドアから、思いも寄らぬ裸体が出現した。光男の股間に突き立つ巨大なペニスがチハルをたじろがせる。

その光男が握った鎖に首輪を曳かれ、素っ裸の尻を後ろに突き出したMが、中腰になってヨチヨチと歩いて来る。踏み出す度に、左右の足首を繋いだ鎖がチャラチャラと鳴った。足枷の中央から股間に延びた鎖が、歩みに連れていっぱいに張り切り、端正な顔が苦痛で歪む。歯を食いしばり、手錠で縛られた後ろ手をきつく握り締め、Mは必死に痛みを耐える。

最後に出てきた修太がドアを閉め、右手に鞭を下げたまま壁際に立つ。
Mと光男の裸身を見つめたまま理事長が大きく咳き込む、ピアニストが点滴セットに手を伸ばし薬液の量をさり気なく増やす。
「M、何という惨めな格好をしているのだ。せっかくの美しさが台無しだ。恥を知りなさい」
喉に押し寄せる喘ぎを耐えて、理事長が声を振り絞った。
首輪の鎖を引かれて上向きになったMの目に、驚愕に痩身を震わせる理事長の姿が見えた。意志だけで生き続けているような枯れきった長身が怒りで震えている。
室の中央に立ったチハルの顔に、露骨な蔑みが浮かぶ。デスクの横の布張りの椅子に座った祐子が、力無く顔を伏せた。コンピューター・デスプレーを見つめる飛鳥が一瞬視線を上げ、またデスプレーに戻した。先週と変わらない顔ぶれが広すぎる空間に散らばっていた。

ピアニストの勝ち誇った声が鋸屋根に響き渡る。
「理事長。驚くほどのことはありません。八年前、私の家でホームステイしていたMは、毎日あの格好を楽しんでいたのです。Mの信じる官能は偏りすぎている。Mは異常なことを好むだけの女なのです」
理事長の顔が苦悩に歪む。
「Mには確かに突飛なことばかり見せられてきた。私の知らない真実があるかと思い、何とか理解しようと努力もしたが、もうその余地はない。最後の決断の前に、ぜひ会いたかったのだが、失望した。M、その醜さで一体何をしようというのだ」
大きく尻を後ろに突きだした中腰の姿勢のまま、Mがじっと理事長の目を見る。腰の曲がったユーモラスな裸身が一瞬大きく見えた。

「理事長。私はこれだけの女です。しかし、これが現実です。私は今日、ここにいる皆さんに、素っ裸の肉体を鞭で打っていただきたい。理事長には鞭打つことは無理でも、痛みと喜びに悶える私の一部始終を見届けていただきたい。素顔の私を、ぜひ知って欲しいのです」
「そんな馬鹿な。私がそれほどの暇人だと思っているのか。汚い夢の話は汚いベッドでしたがいい」
「いいえ、お忙しく、時間もない理事長だから、かえってお見せしたいのです」
その場にいた全員が静まり返るほど真剣な声で、Mが訴えた。
「お引き取りください」
Mの言葉に、危険なにおいを嗅ぎつけたチハルが冷ややかな声を出し、ドアの前に進んだ。
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官能のプリマ全10章
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