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11 海へ(5)

さっきより幾分傾いた月が、斜めに青い光をこぼす。その光を顔の半分に浴びたMが僕の顔を見上げて、いたずらっぽく片目をつむった。
彼女は素っ裸のまま中腰になり、足枷に足元を取られないようによちよちとユーモラスに、背中で繋がれた手錠を揺すりながら遠ざかって行く。
僕は疲れ切った神経を抱いて、律儀にピアノの前に座る。どこまでお人好しなんだろうと思いながら、埃の積もった蓋を開けた。さっと両手を出し、スケルツォを弾こうとしたが、そんな気分にはなれない。しばらく鍵盤とにらめっこをしてからそっとHの音を置いた。

ショパンのエチュードから「第三番ホ長調・別れの曲」を弾き始めた。珍しくゆったりと、恥ずかしげもなく感情を込めて彼女のためだけに、別れの曲を月明かりの中で弾いた。


白いセーターにホワイトジーンズと、白で決めて待っていた僕の耳に、ベンツの低いエンジン音が聞こえてきた。
まだ夜明け前だ。Mの言っていたことが一つ当たった。
慌ててコンバースのワンスターに両足を突っ込み、紐を締めるのももどかしく窓から飛び降りる。もちろん白のおニューの靴だ。今朝のアンダーは真紅のビキニ。気合いが入っていた。

眠らずに考え続けた結果。やはり彼女との最後の時に賭けようと思ったのだ。何が起こっても、二日後には都会に向かうつもりだった。

全力疾走で蔵屋敷へと向かう。
街道へと続くアプローチに走り込んだとき、左手に続く梅の木をヘッドライトで照らしながら、大きくカーブを切ったベンツが現れ、僕の直前で急ブレーキを踏んだ。
運転席のドアが開き、地面に立った父がじっと僕を見つめる。
「僕も連れてってもらうよ」
大きな声で叫ぶと、父の肩が大きく落ちた。すかさず後部ドアが開き、母が姿を見せる。
「だめっ」
僕の声に負けないほどに叫ぶが、知ったことではない。父が車から降りているのをいいことに、母と反対のドアに素早く回り込む。車窓越しに、鎖に繋がれた手がロックを外すのが見えた。
さっとドアを開け、身を滑り込ませ、ドアを閉める。シートに横になった身体を立て直すと、すっとMが身を寄せてきた。周りにも気を配りながら、さっと彼女の様子をうかがう。彼女は煤ぼけた灰色のポンチョのようなものを被っていた。ドアロックを外したときに乱れたのか、前がめくれ上がり、両手を繋いだ手錠と、股間から延びた鎖が目を打った。ポンチョの下はやはり全裸だった。
Mの言ったことがまた一つ当たった。

車外に片足を踏み出したままの母が、父に歩み寄ろうと外に出たが、タイミング悪く父はもう、運転席に着いてドアを閉めてしまっていた。閉め出されてしまった形の母は無言のまま、しばらく外に立っていたが、ふーと大きく溜息を付いて車内に戻り、ドアを閉めた。
その間僕は、Mのポンチョの乱れを直し、ちゃかり右手を下に潜り込ませ、彼女の両手に握らせていたのだった。
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