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15 夏祭り(2)

そこに、鳥居をくぐって白ずくめの一団が入ってきた。
弦楽五重奏団を迎えて、急に境内が華やかになる。

「おはようございます。夏らしいユニホームですね」
大きな声で陶芸屋が五人に挨拶した。
「おはよう、御輿も置かれて、すっかり祭り気分だな」
先頭のチェロが陽気な声で言った。
ヴィオラのケースを抱えた町医者の奥さんは平気な顔をしていたが、他の三人は奇妙な御輿に戸惑った顔をする。しかし、あの花見コンサートで慣れたのか、異様な御輿のいわれを聞くこともなく、三人の男たちと挨拶を交わしながら演奏の準備を始める。
「恩師、日が山から上ったら演奏を始めてください。音楽が聞こえ次第、俺たちが登場します。つまらない挨拶は一切抜きですからね」
陶芸屋がチェロに言い、男たちは境内を後にした。


チェロを中心に弦楽五重奏団が配置に付いた。子供たちの用意したパイプ椅子に座り、各自が弦に弓を当て、音の調子を合わせ始める。
「皆さんおはようございます。暑くなりそうですね。ご苦労様です」
鳥居の下で大きな声が響き、にこやかな笑みを浮かべた助役とセンセイが入ってきた。
「助役さん、センセイ。おはようございます」
五人の高齢者が小学生のように声を揃えて挨拶する。
助役もセンセイも黒のサマースーツ姿だった。白の上下で揃えた五重奏団とは正反対の服装だ。

「助役さん、今日は町長選挙の告示日でしょう。立候補の手続きはいいんですか」
第一ヴァイオリンの白髪の女性が尋ねた。もっとも、どの女性の髪も皆真っ白だ。
「ご心配をかけます。祭りが終わり次第手続きに行きます。だから、まだ私は候補者ではない。一町民として祭りを楽しませてもらいますよ」
助役が答え終わったとき、山の端からまぶしい日の光が輝き、直射光が境内一面を白く染め上げた。

チェロが姿勢を整え、右手に持った弓を静かに弦に当てた。
モーツァルトの弦楽五重奏曲第四番ト短調、第一楽章の調べが、静まり返った元山神社の境内に響き渡った。歓喜と悲嘆を繰り返す主題がアレグロで駆け抜けて行く。

鳥居の向こうから子供たちの歓声が聞こえてきた。
「ワッショイ、ワッショイ、祭りだワッショイ」
囃し立てる嬌声とともに、それぞれに大うちわを手にした修太と祐子、光男の三人がうちわを打ち振りながら後ろ向きになって歩いて来る。三人のかわいい尻が日に輝いた。皆素っ裸だった。日に焼けた裸身に大粒の汗が噴き出している。子供たちの打ち振る大うちわに扇がれて、Mが姿を現す。やはり素っ裸だ。無毛の裸身の背筋を伸ばし、堂々と歩いて来る。
豊かな乳房の上下に黒い麻縄が二条、厳しく巻かれている。後ろ手に厳しく緊縛された真っ白な裸身が朝の日にまぶしく輝く。
縄尻を持って後に続く陶芸屋も緑化屋も、そして村木も素っ裸だった。村木は両手で股間を隠して歩いて来る。堂々と股間を見せて歩く四人の中で、ひときわ貧相に見えた。

「裸祭りが始まるのか」
狛犬の前に置かれたパイプ椅子にセンセイと並んで座った助役が、あきれた声で言った。
「でも、みんなうれしそう。開放的な祭りですよ」
「そうかな。開放的でないやつもいる。村木を見ろ。情けないやつだ」
助役が苦笑した。
モーツァルトの調べが一層高鳴る。
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