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15 夏祭り(3)

御輿の前まで来た一行がうずくまり、御輿に一礼した。
Mが陶芸屋に声をかける。
「やはり胸の中央で、上下の縄を一つに束ねて」
黙ってうなずいた陶芸屋が緑化屋から黒い縄を受け取り、乳房の上下を縛った四本の縄の下に二本の縄を通す。力を込めて縄を引き絞ると、胸の中央で上下二条の縄が一つになった。
「ヒッ」
押し殺した悲鳴がMの口を突いた。縄目の間から無理に、変形して突き出された乳房の先で二つの乳首が苦痛に震えた。
「これがいい」とMは思った。カンナにされたのと同じ、過酷な縄目を受けて祭りに臨みたかった。
小さくうなずいたMは、御輿の中央から延びた横板の上に置いた黒い大皿に左足を乗せた。緑化屋と村木が屈み込んで御輿を支える。

大きく足を開き、右足で赤い大皿を踏み締める。カンナの熱い思いが足の裏から全身に流れていった。Mは大きく開いた股間を心持ち引き、まっすぐに伸ばした背筋を後ろの柱に預けた。陶芸屋が柱と一体になるよう、厳重に裸身を麻縄で縛り付ける。

「ワァー」
素っ裸の男たちと子供たちが歓声を上げた。Mの裸身が二つのご神体を一つに繋ぎ、三位一体となった御輿が完成したのだ。

先棒を担ぐ村木を先頭に、陶芸屋と緑化屋が位置に付いた。
「エーイッ」
三人で声を揃えて御輿を担ぎ上げる。
「ワッショイ、ワッショイ、祭りだワッショイ」
囃し立てる子供たちの声がモーツァルトの調べと一体になり、元山神社の境内に轟く。Mの裸身が激しく、上下、左右に揺れる。
揺れ動く裸身が踏み締める赤と黒の大皿に、Mの汗が伝い落ちる。なんとも雄壮で、艶めいた御輿だった。後ろ手に緊縛され、歪んだ乳房を縄目から突き出した無毛の裸身が、熱い日差しを浴びて揺れ動く。

Mは大きく目を見開いて、一切を見る。今日を限りの元山沢のすべてを、記憶し続けようと思った。

助役が上気した顔で、隣に座るセンセイに話しかけているのが見えた。
「いい、実にいい祭りだ。しかし、この裸御輿は、町の観光資源にはできないだろうな」
「住む人が共に楽しむ祭りですよ。ほら、みんな楽しそう。子供たちのあんなに楽しそうな姿は、これまで見たことがありません。私も混ざりたくなってしまう」
センセイが御輿から目を離さずに答えた。
「センセイも混ざればいい。私も楽しみだ」
「助役さんも一緒に行きましょうよ」
「いや、センセイ一人がいい。私は裸になるわけにいかない」
「別に、裸でなくとも、」
「いや、裸でないと参加した意味がない。さあ、センセイどうぞ」
勧められるままにセンセイが靴を脱ぎ、黒のスーツを脱いだ。続いて黒のブラジャーとショーツを脱ぎ捨てた。素っ裸になって、恥ずかしそうに助役に笑い掛けてから、引き締まった小振りの尻を振って駆け出して行った。まぶしそうな目で助役が見送る。

「ワーイ、センセイも来た。ワーイ、祭りだ、祭りだ、ワッショイ、ワッショイ」
センセイの裸身を見て、修太と光男がうれしそうに駆け寄って来て囃し立てる。
じっと一切を見下ろすMの下腹部がツンと痛んだ。吹き出す汗に冷たい汗が混じった。生理の予定はもっと先だったはずと思ったが、大きく開いた股間に熱い感触を感じた。

先棒を取る村木がつまずき、御輿が大きく傾斜した。
Mの股間から、どろっとした赤黒い経血が太股を伝い、地面に落ちた。
見ていた子供たちと、後棒を担ぐ陶芸屋、緑化屋が戦慄した。
御輿が止まり、子供たちが静まり返った。
Mの裸身だけが頭上で直立している。

「バンザイ、Mバンザイ、バンザイ」

唐突に祐子のかん高い声が響き渡った。始めて聞く祐子の声だ。
「私はMが大好き。バンザイ、バンザイ、Mバンザイ」
続けて祐子が叫んだ。

「Mバンザイ、Mバンザイ、バンバンザイ」
修太と光男が祐子に和して叫んだ。子供たち全員が目を輝かせ、小さな裸身を震わせて唱和している。
それを見た男たちの裸身が感動に震えた。陶芸屋のペニスが熱く努張していく。
喉元に込み上げてきた雄叫びを全員が解放した。

「万歳、万歳、M万歳」
男たちの歓声と、子供たちの歓声が元山沢に流れていく。
静かに立ち上がった助役が、ゆっくりと御輿の前に進み出る。両手を一杯に空に伸ばした。

「万歳、万歳、M万歳、元山沢万歳」
モーツァルトの歓喜と悲嘆に乗って、助役の万歳がこだました。


大きく見開いたMの目に、にこやかに笑ってチェロを弾く老住職の顔と、ヴィオラを操る奥さんの顔が見えた。
素っ裸のセンセイが、興奮に震える祐子の裸身を抱き締めている。その回りを修太と光男がうれしそうに飛び跳ねている。

途絶えることのない歓声を耳にしながら、Mはそっと目を閉じた。
両足が踏み締める赤と黒の大皿から、歓喜と悲嘆が交差する確かな手応えを、はっきりと感じ取った。
全員が集い合っているのだと、Mは痛烈に確信した。


第3章 廃鉱 ― 完 ―

次回 第4章 卒業
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