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12.ひとすじの道(5)

「弥生、早く退け」
オシショウの怒声が、また背中を打った。
「私は、私の信仰を生きる」
澄み切った声がホール中に響き渡った。弥生がピアニストに向かって歩き出す。背筋をまっすぐに正し、後ろ手に縛られた胸を張って、全身でピアニストを覆い隠すために堂々と歩く。ピアニストと弥生の距離が急速につまっていく。ベレッタを構えたピアニストの顔が動揺し、苦悩に歪んだ。弥生はピアニストの目だけを見つめて歩き続ける。瞳の奥まで歩いていこうと決心した。ひとすじの道が遠くまで続いている。弥生が一メートル前まで迫ったとき、ピアニストの身体が左に跳んだ。目で動きを読んだ弥生の身体も、一瞬遅れて横に跳んだ。弥生の耳元でピアニストの銃が空を撃ち、カチッと貧相に鳴った。

ズガーンッ

同時にオシショウの銃声が響き、弥生の白い背中から真っ赤な血が吹き上がった。後ろ手の手錠を鳴らして弥生はピアニストの胸に倒れ込む。銃弾は背中から心臓を貫いていた。即死だった。オシショウが銃を構え直す。銃口から青い煙の上がるベレッタの照準を慎重にピアニストに合わせ、引き金を絞る。
「ウワアー」
唸りに似た叫びを上げて、緊縛されたMの裸身が飛鳥に突進した。飛鳥の身体がもんどり打ってテーブルごとオシショウを突き倒す。その拍子に照準の狂った銃口から連続して三弾が発射された。
「ヒッー」
布を引き裂くようなかん高い悲鳴が睦月の口を突いた。揺らめく足を踏ん張ってMはステージ奥を見た。睦月が縋り付いている修太の額にぽっかりと黒い穴が開いている。照準の狂った一弾が眉間を打ち抜いたのだ。修太も即死だったに違いない。Mは迷わず弥生の死体に駆け寄る。修太には睦月がいる。弥生の亡骸を抱くピアニストは、なぜか視野に入らなかった。弥生の身体をピアニストがMに差し向けた。血まみれになった裸身が哀れで、愛おしくてならない。Mは後ろ手に緊縛された不自由な裸身を弥生の身体に密着させた。全身を素肌に擦り付け、溢れ出る血を舌で舐め、口に啜った。温かな肌と血の温もりがMを悲しみの淵に突き落とす。Mと睦月の号泣する声がホール中にこだました。しかし、すべてが大ホールの舞台で起こったことだ。銃声も、悲鳴も、号泣も、ホールの外に漏れることはなかった。


ベレッタを手にしたオシショウがゆっくりと立ち上がった。憎々しい表情で両手で拳銃を構える。腰を落として再度慎重にピアニストに狙いを付けた。
「オシショウ、もういいですよ。修太の代わりがいなくなってしまう。ピアニストの始末は警察がします。最終幕のセットをして引き上げましょう」
飛鳥がうんざりした声でオシショウを制し、素っ裸で抱き合っている三人の背後に回った。右手に新しい麻縄の束を下げている。

「一切が終わったんだ。最後の舞台は私が演出する。Mとピアニストの肉体を素材にして、踏み込んできた警官があっと驚くようなアートを作ってやるよ。私にだって遊び心はある」
進行する狂気に侵されたように飛鳥が宣告した。唇の端に垂れた涎を麻縄で拭って、ピアニストの背後に屈み込んだ。弥生を抱いてぼう然とうずくまるピアニストの両手を背中にねじ曲げ、両手首をきつく緊縛する。弥生の死体は空しく舞台の上に転がってしまった。続いて飛鳥は、血まみれになったMを乱暴に立ち上がらせた。緊縛された裸身が直立し、全身を揺すって啜り泣いている。飛鳥の震える手がMの両脇から縄を通した。二本の縄で両乳房の上を縛ってから、厳重に腰縄を補強する。最後に左右の足首を別々の縄できつく縛った。

「オシショウ、T字型のバトンを下ろしてください。うつ伏せの開脚姿勢でMを舞台の上に吊します」
飛鳥が大声で舞台下手のオシショウに声を掛けた。オシショウが黙って舞台袖に消えた。やがて低いモーターの音とともに、十メートル上の天井から二本のワイヤーで吊り下げられたT字型のスチールパイプが下りてきた。パイプは床から二・五メートルほどの高さで止まった。飛鳥が背中に打った胸縄の縄尻を曳いてパイプの下にMを追いやる。直立した裸身の背中から延びた縄尻を、たるませたまま長いパイプに縛り付けた。次に、腰縄をとって同じパイプを潜らせた。右手でMのウエストを抱え、飛鳥が全身に力を入れてMを抱え上げた。左手で腰縄を引き絞ってからMの身体を離す。胸縄と腰縄の二本の縄がピンと張ってMの体重を支えた。うつ伏せた裸身が斜めに吊り下げられている。下を向いた顔の下三十センチメートルの所に舞台があった。長い髪が床に垂れ下がっている。腰は床から一メートルの高さで吊られている。不安定な姿勢に尻が震える。尻の割れ目を縦に縛った縄が無惨だった。自由になる両足が無様に空を蹴る。飛鳥が右足首を縛った縄を横に走るパイプの端に高々と吊した。続いて左足も吊り上げられた。胸縄と腰縄、そして両足首を縛った縄の四本でうつ伏せに吊り下げられた裸身が大きく両足を開き、弓なりになって宙に浮かんだ。体重を支える縄目が素肌を噛み、縄がきしむ。たまらない痛みと苦しさで、頼りなく全身が揺れた。
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