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12.ひとすじの道(6)

「広げきった股間が寒くないように、衝立を用意してやるよ」
吊り下がった裸身を見下ろして、飛鳥が楽しそうにつぶやいた。今までしたことがない肉体労働にも飛鳥は疲れを見せない。身体を翻してピアニストに近寄っていく。縄尻を持って曳き立ててきたピアニストを小突いて、Mの股間に無理矢理正座させた。膝が崩れぬように麻縄で厳重に縛り付ける。ピアニストは弓なりに吊り下げられた股間に顔を押し込んだ姿勢で拘束されてしまった。目の前に大きく開いた股間がある。陰門を封鎖したリングに通した縄がざらついた感触をピアニストに伝えた。

「悲劇のヒロインとヒーローがこれで揃った。踏み込んでくる警官も動転して、捜査が遅れるかも知れない。かわいそうだけど股縄は外さないよ。これは悲劇だからね、官能劇になっては困る」
肩で大きく息をついた飛鳥が、芸術作品を眺めるような陶酔した声で言った。
「あなたたちこそ喜劇役者よ。逃げおおせるわけがない」
Mの怒声がホールに響いた。弓なりに吊り下げられた裸身が宙で揺れる。

「相変わらず、Mは往生際が悪い。ピアニストは何か言うことがあるかな」
愉快そうに飛鳥が矛先を変えた。
「僕の負けだ。したいようにするがいい。だが、こんなに多くの死をオシショウが望むとは思わなかった。最大の誤算だ。責任を痛感する」
「ハハハハハ」
下手から近寄ってきたオシショウが高らかに笑った。
「官能を求めたMと、変革を求めたピアニストにぴったりの構図だ。他の者は滅びの道を求めただけだ。そして今夜、見事に本懐を遂げた。信仰のない者だけが無様に生き延びるのだ。誰からも惜しまれることがない。恥辱にまみれてほろびの時を待つがいい。飛鳥、そろそろ時間だろう」
オシショウが促し、飛鳥が腕時計を見た。もうすぐ午前零時だった。

「午前零時には魔法が解ける。Mとピアニストの夢もそれまでだ。オシショウ、爆弾をセットしてきます。救急車に乗り込んでいてください。ボタンを押せば五分後に爆発する」
飛鳥がこれ見よがしに、修太から取り上げたリモートコントロールの起爆装置をピアニストに見せて舞台を下りた。オシショウは下手奥の偽救急車に向かう。静まり返ったホールに、飛鳥の足音と修太の亡骸を抱いて啜り上げる睦月の泣き声だけが響いた。Mも弥生の亡骸を抱いて友のためにさめざめと泣きたいと思う。これ以上はない恥ずかしい格好で晒し者になった姿が情けなくて仕方がない。うなだれた顔を上げると、五メートル先の床に血まみれになった遺体がねじ曲がって転がっている。ちょうどMの目の高さだった。無機物になってしまった裸の遺体は、それでも美しく見えた。白々とした尻がMに向けられている。尻の割れ目から流れ出た汚物が無惨だ。死に顔が見えないことが無性に悲しく、うれしかった。

「頑張るのよ。Mには私がついているわ」
亡骸がMに語りかけた。見えない死に顔が幻聴をもたらす。勇気が出そうになった。しかし、もう弥生はMについていてはくれない。殉教者は一人で死ぬのだ。逆さ吊りになったMの目から、また涙がこぼれ落ちた。

「M、すぐに爆弾が破裂する。ホールのドアから爆風が吹き込むかも知れない。身体を固くして衝撃に備えろ」
突然、ピアニストの声が耳を打った。頭で鳴っていた弥生の声がスッと消え去る。現実がMの裸身を覆いつくした。全身が緊張する。
「どうして」
反射的に聞き返した。
「きっと修太が飛鳥をだましたんだ。リモコンのボタンを押せば、どこで押してもすぐ爆発する」
ピアニストの言葉が終わらないうちに鋭い衝撃が舞台を震わせた。轟音が響き渡り、大ホールの二重ドアから熱風が吹き込んできた。

正面玄関の横に並んだカウンターの陰で、極月は見張りを続けていた。配置についてからもう一時間半になる。何の異常もなかった。だが、集結最終時刻の午前零時が間もないというのに何の連絡もない。極月のいらだちは募っていった。何度もエントランスホールの奥のドアを振り返った。何回目かに振り返った視界に大きく開くドアが入った。立ち上がって見つめると、黒い人影がエレベーターホールに向かっていく。警備員の巡回かと思って、慌ててカウンターの陰に伏せた。同時に足元から衝撃が突き上げてきた。驚いて見上げたエントランスホールのガラス屋根越しに、夜空に吹き上げる真っ赤な火柱が見えた。火柱は透明なガラス張りのエレベーター通路を駆け上がって、打ち上げ花火のように夜空に散った。ライトアップされた白い繭型屋根が真っ赤に染まる。爆発音に痺れきった耳に太い叫び声が飛び込んできた。

「爆発だ。警察と消防に通報しろ」
巡回を始めた警備員の悲鳴が、崩れ落ちて割れるガラスの音に混ざった。ちょうど午前零時だった。極月は右手のベレッタを握り締めて、大ホールに向かって走った。ホールのドアの前に、見る影もなく焼け爛れた飛鳥の死体が吹き飛ばされていた。かろうじて焼け残ったスーツの背中が身元を告げている。大ホールの客席を駆けながら極月が大声で叫ぶ。

「トラブル発生、飛鳥が死んだわ」
興奮した叫びに答える声はない。客席を走り抜けて、異様な裸体が吊り下がった舞台に迫る。しなやかな身体が一気にジャンプして舞台に上がった。血塗られた床に横たわった六つの死体と、Mとピアニストの悲惨な姿が一切の出来事を極月に告げていた。

「極月、早く救急車を出せ」
偽救急車の助手席から降りてきたオシショウが鋭い声で命じた。
「卑怯者、私は裏切りは許さない。師といえども懲罰する」
高らかに叫んだ極月がオシショウの言い訳も聞かずにベレッタを構えた。迷うことなく連続して五発撃った。全弾を腹部に受けたオシショウが舞うように床に倒れた。しばらく腰を曲げて全身を痙攣させていたが、すぐにぐったりする。ほとんど即死だった。極月の手から重いベレッタが床に落ちた。乾いた音が合図のようにピアニストが口を開く。

「極月一人なら今からでも脱出できる。救急車に乗っていってくれ」
広げられた股間の前で後ろ手に縛られ、素っ裸で正座したピアニストを極月が不思議そうな目で見た。
「十五億円を一人で使い切る自信はないわ。私は残る」
ピアニストが肩を落とした。黙って股間に顔を寄せる。逆さ吊りになったMが苦しそうに首を曲げて極月を見上げた。

「極月、お願いがあるの。ここに残るのなら、股間を縛った縄を解いて欲しい。ピアニストに舐めさせたいの」
Mの願いに応えて極月がククッと笑う。笑い声が言葉に代わった。
「本当にMは強い。弥生が憧れたのも無理ないわね」
しんみりと言った極月が溜息を付き、尻の割れ目に食い込んだ縄を外した。ピアニストが待っていたように肛門を舐め、リングで封鎖された陰門に舌を這わせた。忘れていた官能の喜びが下腹部に込み上げてくる。パトカーのサイレンが聞こえ、ピアニストの喘ぎが耳を打った。痛いほど股間が吸われる。ピアニストが弥生の肉体を思い出して吸ってくれることだけを、Mは痛切に願った。

第6章 強奪 ―完―

明日より、第7章 婚姻 お楽しみに!
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官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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