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8.終焉(11)

「ウワッー」
絶叫を上げて走り寄ったMの前に、腹を押さえた名淵が倒れかかる。脚に温かい血しぶきが飛んだ。構わず全身を躍らせてチハルにぶつかっていく。体当たりされる寸前でチハルが身をかわし、脚を飛ばしてMの足を払った。もんどり打って裸身が倒れる。
「憎らしい女だ。だが、お前までは殺しはしない。私は疲れた。変態らしく寝ているがいい」
無様に倒れたMの縄尻を掴んで、チハルがつぶやき続ける。荒々しい手つきで倒れた身体をうつ伏せにして、後ろ手の縄尻を足首に縛り付けた。逆海老の姿勢で縛られた裸身が屈辱に震える。無理をして頭をもたげ、チハルを見上げた。背後に倒れ伏した名淵が絶え間なくうめき声を上げている。

「Mに看取られて死ぬのは悔しいが、こうして責め上げてやれば諦めもつく。さあもっと、淫らな尻を振って悶えて見せてよ」
チハルの静かな声が頭上から落ちた。見上げる顔の前に汚れきったジャングルブーツが飛んできた。チハルが銃を持ってMの前に座った。銃口を口に含み、足を投げ出して引き金に足指をかけた。
「チハル、やめなさい。死んではダメッ」
声を振り絞ってMが叫んだ。チハルがMの顔を見下ろす。逆海老に縛られた裸身が全身を身悶えさせて叫んでいる。生のエネルギーが目にまぶしい。まるで官能の極みで打ち震えているように見える。Mの陰門はきっと、愛液で濡れそぼっているに違いないと思った。ひそかな羨ましさが込み上げ、チハルの口元に微笑が浮かんだ。足指に力を入れて引き金を引いた。


ズガーン


銃声が響き渡り、チハルの頭が砕け飛んだ。紫紺のスーツに身を包んだ首の無い身体が目の前に倒れている。Mの裸身が戦慄し、激しく嘔吐した。大きくしゃくり上げた瞬間に、逆海老に縛られた後ろ手の縄が抜けた。痺れきった両手を伸ばし、倒れたチハルの足をさすった。素肌の温かさが指先に伝わる。不思議に涙は湧いてこない。がらんどうになった身体を悲しみが満たした。

「Mさん、早く救急車を呼んでください。苦しくて、もう死にそうだよ。早く、早く救急車を呼んでくれ」
背後で哀れな声が聞こえた。思えば声は、ずっとMに呼び掛けていたような気がする。空しい煩わしさが押し寄せてきたが、気力を振り絞って足首の縄を解き、よろよろと立ち上がった。無気力に振り返ると、乾ききった地面を大量の血で黒く染め上げた中心に名淵が横たわっている。裂けた腹からはみ出た内蔵を手で押さえて、泣き声で訴え続けている。
「救急車を呼んでください。さあ、早く。明日は日曜日だ、Mさんも病院に付き添ってください。お願いします。まだ死にたくない」
確実に死が迫った名淵が必死に訴える。官能のかけらも感じられない貧相な声だ。情けなかった。情けなさに身を震わした瞬間、坂の下からバイクのエンジン音が響いてきた。Mはチハルの首のない死体に近寄り、握っていたレミントンM1100を奪った。名淵の前に戻って、苦痛に歪んだ顔を見下ろす。薄目を開いた名淵が縋るようにMを見上げた。
「検事さん、チハルと同じように、あなたにも日曜日は要らない。私が楽にして上げるわ」

落ち着いた声を聞いた名淵の目に恐怖が浮かんだ。Mは大きく目を見開いて真っ赤に膨れ上がった恐怖を見た。無造作に引き金を引く。手に持った重い銃が跳ね上がり、銃声が轟く。名淵の頭が砕け散って、首のない死体が残った。進太のバイクが目の前でUターンしていく。

「バカヤロー」
低い叫び声がエンジンの音に混じって遠ざかっていった。一切を見届けた進太がどのような感情を抱いたか、Mには分からない。だが、もうチハルに頼ることはできないのだ。たまさかの父権は潰えた。後は進太が自分の足で立ち上がるしかない。いくら儚くとも、希望はちっぽけな個人の身体の中にしかないのだ。

また風が立って、冷たい空気が裸身をなぶった。気圧配置が換わり、木枯らしが吹き荒ぶような予感がした。
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