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8 官能の果て(2)

また、どれほどの時間が経ったのだろうか。彼が出掛けに注意していったように、縊死してしまいそうなまでに体力が消耗し、最後の矜持に頼って直立していたとき。遠く私道に、ロードスターの太くて低いエンジン音がこだました。

土埃を上げ、数メートル先の木犀の下に停車したロードスターの助手席に私は、始めて見る、しかし見慣れた少女の貌を認めた。
車から降りた彼は、私に一瞥もくれずに助手席のドアへ歩み寄ってヴァイオリンケースを抱えた少女を恭しく降ろした。
少女は周囲になんの関心も払わず、彼にエスコートされるままに足早に母屋へ通った。当然、すぐ側に晒されている私を見ることもない。

霞む目で二人を見送る私を待たすこともなく、一人で戻って来た彼はポケットからナイフを取り出し、猿轡の紐を切り、首を松の枝に繋いだ縄を切った。
縄を切られた瞬間に膝が崩れ、地面にくずおれた私に「まだまだ、だよ」と言って彼が、首縄の端を持って引き立てる。
残酷な仕打ちにも関わらず何故か、目に熱い涙がこみ上げ、素直に気力を振り絞って立ち上がった私を、彼は縄尻を取って母屋へと引っ張って行った。

いつも私が座るスタジオのソファーに、ヴァイオリンケースを膝に置いた少女が、淡いピンク色の暖かそうなワンピースを着て座っている。首縄を引かれてスタジオに上がって来た私は緊縛されたまま、ソファーの正面の部屋の隅に引き据えられた。
もう、先ほどの熱い涙は乾いていたが、少女の前で加えられる過酷な仕打ちにまた一筋、今度は悔し涙が頬を伝った。

「正座していなさい」
彼に命じられ、渋々正座しようとしたが、先ほど何度も息み、肛門から十センチメートルほど押し出した鞭の柄が座る邪魔をして、腰を下ろせない。正座を命じたまま背を向け、少女の方へ向かう彼の後ろ姿と、顔を伏せている少女とを等分に恨めしく見たが、私は先ほどの努力に痛い対価を払わざるを得なかった。
私は腰をもぞもぞと動かし、お尻から突き出た鞭の柄を床に垂直に立て、徐々に尻を下ろしていって、再び鞭の柄を肛門の中に自分で飲み込んでいったのだ。このユーモラスな動作はきりきりと痛みを伴い、情けない屈辱感と相まって私は、全身の血が逆流するのを感じた。

苦労して正座しきったとき彼が振り返り、いささか得意そうな口振りで気取って演説を始めた。彼の鋭い視線を受けた私は、お尻から生えた鞭の処理の現場を見られなかったことだけを望んだ。

「あなたもよくご存じの、素敵な友だちをご招待してきましたよ。会うのは初めてかもしれませんが、彼女にあなたを紹介することはできません。あなたの汚れきった心根に触れれば、彼女の無垢な美しさが壊れてしまいますからね。その代わりと言っては何ですが、これから、あなたのために楽しいホームコンサートを開きますから、ゆっくり楽しんでください。そして、私が築き上げた素晴らしいネットワークの一端にぜひ、触れてみてください。きっと、私のことを自閉的だとか、社会性がないだとか言った戯言を、恥ずかしく思うようになりますから」
少女の隣に佇んだ彼は、かつての自信溢れるバリトンで優しく「さあ、美しい演奏を聴かせてやってください」と促す。

ケースからヴァイオリンを出して立ち上がった少女は、やにわに弓を取って演奏を始めた。
突然あふれ出た音はバッハではなく、パガニーニだった。
ひときわ狂おしい調べが、広いスタジオ全体を荒々しく圧した。しかしその調べは、公営住宅の窓辺で聴いた澄明な沁み入るような音色ではなく、気ぜわしく無神経な、不揃いの音に聞こえた。
少女の前にしゃしゃり出て、まるで指揮を執るかのように両手を振り回して興奮する彼は、私と少女の間を走るような歩みで行きつ戻りつしながら、ヴァイオリンの音色に負けないようなかん高い嬌声を上げた。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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