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- 2010/09/22/Wed 16:57
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- 第1章 -M-
たとえ下着姿でも、豪奢な気分になった私は、全く新しい舞台に立つ、選ばれたばかりのプリマのように誇らしい気分で、後ろにかしずく彼に言ってしまった。
「あの少女を、何処に乗せようと思っているの。この車は残念なことに二人乗りなのよ」
「もちろん、あなたの隣には私が座ります。置いていってもいいのだけれど、やはり可哀想かも知れませんね。私たちのために彼女は、精一杯の事をしてくれたのですから。できることなら、どうしても一緒に連れて行ってやりたいと、あなたも思いませんか。実に可哀想な少女でしたからね」
いつの間にか彼は、二人称を使いだしていた。意識しているのか、いないのか、落ち着いたバリトンからは推し量ることはできなかったが、矛盾した物言いの中に再び、大人の狂おしい時間が還って来たような感じがした。
そして、全てを打ち捨ててすぐ車に乗り込むこともできたのに、彼に話し掛けてしまった私自身、少女を殺したのは私たち二人の仕業ではなかったかとの思いが、脳裏にこびり付いていたのかも知れなかった。更に、ひょっとしたら私のために少女の死が用意されたとさえ自惚れる気持ちが、不気味に頭をもたげて来るのだった。
まさかそれほど、あんな変態男にいまさら惹かれるのかと、自分を罵って冷静になろうとすると、足元をすくうように彼が言葉を落とした。
「このトランクに入れてあげるわけにはいかないのだろうか。できることならやはり、彼女を連れて行ってあげたいのですがね」
「ご覧の通りトランクも狭いのですよ。何故、そんなに彼女に執着しなければいけないんですか」
彼女の屍と言えなかった事に舌打ちしたが、彼女を生身に扱ったことでもう勝負は付いていた。工具箱からレンチを出して、スペアタイヤを外しだしたのは私だった。
「これでご要望に応えられるかも知れませんよ」
「ありがとう。あなたは実に頼りになる。難問を解決してもらって本当に感謝しているのですよ。しかし、こんな狭いスペースに彼女を乗せることができるのだろうか。ちょっと心配になりませんか」
少女が乗れなかったら私が残るまでのことであり、むしろ、冷静に考えればその方がいいに決まっている。
「先ず、やってみることでしょう。あなたのお望みなのだから、あなたが責任を持って試してみなくては分からないことでしょう」
「別に私が強く望んだ訳ではないのです。あなたが解決方法を見付けてくれたのがありがたいだけなんですよ」
あいかわらず無責任な言葉だけを演出する彼をおいて、私は母屋へと向かった。当たり前のように彼は、私に付いて一緒に歩を進める。