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9 崩壊(5)

スタジオに戻り、哀れな少女の屍を前にして「さあ、肩のところを持ってください。私が脚を持つから、一緒に車まで運んでいきましょう」と声を掛けるが、彼は身を堅くして直立するばかりだ。嫌気が差し、彼をおいて身に着ける服を見付けるために寝室に行こうとしたが、黙って彼も付いて来る。構わず彼を従えたまま寝室に入ってワードローブを開け、ゆったりとした丈の長い、細番手の黒いカシミヤで編んだセーターを見付けた。頭から被ってみると、ちょうどミニのワンピースの丈に収まり、私によく似合って見えた。
気分を良くした私は、再び彼を従えてスタジオに戻り、横たわった少女の屍を苦労して肩に背負った。傍らで見つめる彼が言った言葉は一言。万感の思いを込めたような低いバリトンの「ありがとう」だった。

少女の重い屍を背に私は、意外に足取りも軽く、従者を連れた奴隷のように彼を従え、ロードスターへと戻った。しかし、スポーツカーのトランクはさすがに狭く、少女の入り込む余地はないように思われた。素裸の屍の尻をトランクの底に着け、伺うように彼の目を覗き込むと「身体を折り曲げてしまえばいいんですよ」と平然と言った。
あんたがしてみればと、声に出さずに言ったが、行き掛かり上弱い立場に立ってしまった私は仕方なく、少女の屍を横に伸ばし、トランクからはみ出た下半身を両手で抱えるようにして全身の力を加え、まるで、油の切れた折り畳み式の自転車を収納するみたいに折り曲げてみた。その残酷な仕打ちを、脇から見ているもう一人の私が厳しく非難したが、実際に脇にいた彼は、賞賛の溜息を洩らしていた。

既に死体遺棄の当事者になってしまった私は、窮屈な姿勢でトランクに収まった少女に一瞥を与えただけでトランクを閉じ、彼を急かせるようにして助手席に追い込むや、シートベルトも締めないままロードスターを急発進させた。
ホイルスピンが巻き起こした土煙がバックミラーの中に広がり、さしもの大きさを主張する築三百年の彼の屋敷を包み込んだ。

「何処へ行きたいの」と私が尋ねると彼は、あらかじめ決めてあったように静かな落ち着いたバリトンで応えた。

「海へ」
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Author:アカマル
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官能のプリマ全10章
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