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9 崩壊(2)

なおも話し続ける彼をおいて、私は奇妙な形に捻れて横たわっている少女の屍のそばへ急いだ。まだ暖かさの残っている裸体に手を掛け、捻れた身体を整えたが、後ろ手に緊縛された縄目と、首筋に深く食い込んだ縄が無惨でならない。彼に振り返り、はさみを渡すように言ったが、そっぽを向いたままの彼は、そのままはさみを投げてよこした。全身に熱い怒りがこみ上げたが、少女の姿を整える方が先だ。

苦労して少女の肉体に食い入った縄を全て切り取ったが、透き通る肌の上には赤黒い縄痕が死斑のように、縛されたときのままに残った。
両手で壊れ物を触るように目を閉じさせた少女の顔は、眠るように穏やかだった。縊死したのにも関わらず、体液や排泄物の汚れもない清浄で美しい屍だった。
恐らく、テーブルの端を少女が蹴ったときには、彼女の繊細な心臓は既に停止してしまっていたに違いない。無惨すぎた状況の中でそれは、私にとって唯一の救いに思われた。

私は立ち上がって少女を見下ろした。白く透き通った美しい裸の死体を見ても、特に激しい感情は湧かず、こわばった頬の上を機械的に涙だけが流れた。自ら流す涙の暖かさだけがやけに優しく、この異常な状況の中から私を、部外者であるかのように区別してくれる。

私は、きっぱりとした足取りで部屋の隅に置かれた電話へと向かい、受話器を取り上げ、警察の番号をプッシュした。いつの間にかそばに来た彼が、強い力で通報を押し止める。
「電話はいけませんよ。少女を彼らに渡すわけにはいかないんです。私たちは旅立たなければならないのだから。お願いです」

「旅立ちですって。何を戯言を言っているんですか。一切が終わったんです」
「いや、何も終わってはいません。今、やっと始まったばかりなんです。しかし、それほど時間は残されていません。あなたも、せっかく手伝いに来てくれたのだから早く服を着てください。いつまでも裸でいてもらっては困りますよ」
「あなたは正気でそんなことを言っているの。それとも、これだけのことをしでかしておいて、警察が怖くなったって言うの。とにかく、きちんとした責任を取るのが、あなたに残された常識ってもんでしょう」
「いや、常識以前のことです。しなければならない義務の問題ですよ。せっかく来てくれたのだから、とりあえず車を借りますよ」
彼は私から取り上げていたロードスターのキーをポケットから出した。私は素早く彼の手からキーをひったくった。

何を勘違いしたのか「やっぱりあなたが運転してくれるんですね。これで安心です。またご迷惑を掛けてしまいますね。まるで展示会の初日と同じようです。もっとも、走る方向は逆ですがね」と歌うようなバリトンで言った。

相変わらずの戯言と決め付け、私は素裸の身体に威厳を付けるように豊かな胸を張って屋外へと急いだ。後ろから遅れないように付いて来る彼は、私に並ぶようにして落ち着いた口調で、またしても言葉を紡ぐ。しつこく誘い掛ける言葉の中にいつしか、以前と同じような胸ときめく、あやしいバリトンが甦っていた。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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