2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

3 マスターベーション(1)

僕の部屋は、母屋の南側の一階の奥まった角にある。
なんとも整理できないもやもやとした気分を抱いて、部屋に入るなりドアをばたんと閉め、壁際のアップライトのピアノに向かった。
煮えたぎるような、向けようのない怒りを吐き出すように、スケルツォの二番をもの凄い速さで乱暴に弾ききる。「ヴラヴィッシモ」と言う彼女の賞賛の声が今にも還って来るような気がして三回弾いてみたが、虚しく、なぜか悔し涙が情けなく頬を流れた。
恐らく蔵屋敷か診療所に、父と二人でいる彼女の耳に届けとばかり、全音フォルテッシモで弾ききってみたが、完全に防音された部屋に鳴り響いたぼろぼろのショパンは、いたずらに耳をいたぶるばかりだった。

流れた涙に更に感情を煽られ、疲れた腕と指、全身の筋肉を憎悪したとき、痺れきった耳と霞む視界に、暗くなった外の風景が侵入して来た。
僕はピアノの蓋をばたんと音を立てて閉め、ヒーターのスイッチを消した。セーターを脱ぎ捨て、シャツを脱ぎ、ジーンズまでも部屋の隅に投げ捨てた。コバルトブルーのセミビキニのパンツだけの姿になり、窓際に立つ。黒いガラスに映る汗の浮いた身体を見て、熱くなった裸身を更に熱く感じたとき、僕はパンツを脱ぎ捨てていた。

窮屈な布の下でテントを張っていたペニスが、解放された嬉しさに、ぐっと天を向いて反り返っている。肉の柱を流れる、どくどくと漲った熱すぎる血液の鼓動が聞こえ、張り切った静脈が怒張した褐色の皮膚の上で脈打つ。
僕は外の暗がりをバックに、美しい鏡となった二面の窓ガラスを交互に見ながら、誇らしいほどに怒張したペニスに両のてのひらを当て、力の限りしごき上げた。思っていたほどの快感はなく、騙されたような日常だけがひたすら、勃起したペニスの表層を流れていった。二面の窓ガラスに映る、ペニスをしごき上げる両手が醜く卑猥だった。せっかく逞しくそそり立ち、怒りの自己主張をするペニスを、自分の目で見て納得したかった。僕は両手を後ろで組み、ペニスを窓に向かって突き出した。狂おしく尻を前後に振り、交互に太股を高く上げ、自分自身の腿でペニスを撫でさすった。
急激に高まる快感を何度かやり過ごし、ついに視界が真っ黒に暗転したとき、全身の震えとともに僕は射精した。きれい好きの僕はいじましくも、射精の瞬間に両手をペニスに伸ばし、白濁した精液をてのひらに取っていた。
あれほど見たかった勇姿は見ることもできず、今、目の前の窓ガラスに、痴呆のように放心した、無様な僕が映っている。

そのとき、窓ガラスを叩くコンコンという音がした。
瞬間、全身がカッと熱くなり、限界にまで見開いた目で窓を凝視すると、意地悪っ子みたいに、あかんべーをしている彼女の大きな顔が、網膜に鮮明に焼き付いた。
大慌てで電気を消し、捨ててあったパンツを穿く。無理矢理両足をパンツに突っ込んで足がもつれ、頭から床に倒れてしまった。痛みに耐えきれず僕は、大きなうめき声を立ててしまう。素っ裸のまま、全身でパニックに陥っている耳に、彼女の朗らかな笑い声が幻聴のように響いた。
頭の中が全て空白になり、しばらく横たわっていた僕の耳に、今度は明瞭にロードスターの低く太い排気音が聞こえ、遠ざかって行った。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

最新記事
カレンダー
09 | 2010/10 | 11
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31 - - - - - -
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
free area
人気ブログランキングへ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR