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- 2010/10/14/Thu 15:00
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- 第2章 -ピアノ-
急にドアがノックされ「ご飯ですよ」と言う母の声が聞こえた。もはや何をするにも遅すぎる時間が瞬間に流れ去り、ドアが大きく開け広げられた。
「まあ」と言ったまま絶句した母はドアを閉めればいいものを、ぽかんと口を開けたまま顔全体で驚愕している。
まったく困ったもんだと思いながらも、妙に落ち着いた低い声を作り、萎んだペニスを見られないように身体を斜めに構えて「ドアを閉めてよ」と言うと、びっくりしたことに母は、一歩部屋の中に入るや後ろ手にドアを閉めたのだった。
もう、落ち着いた表情を作っている場合じゃあない。
「何か用なの。早く出ていってもらいたいんだけど。ご覧の通り取り込み中なんだから」
「そんなこと見れば分かりますよ。別にあなたはもう大人なんだから、自分の部屋で裸になって何をしていようと、ハハは干渉する気はないわ。でも、わざわざあの女を連れて来た後で、そんな格好をしてほしくないのよ」
「何のことを言ってるの。あの女ってMのことかな」
「あなたからは確か、学校の先生のようにしか聞かせてもらっていなかったはずよ」
「それはハハが勝手に誤解したことで、僕には責任ないと思うけどな」
「責任も義務もないわよ。あれほど山地を騒がせた犯罪者と仲良くして、のぼせ上がられたんじゃあ心配で眠れなくなってしまいますよ。それにこの始末なんだから呆れ返ってものも言えないわよ」
十分にものは言っていると思った。しかしそのとき、回転の遅い頭の中で、一年ほど前に山地をにぎわせたニュースと、先刻Mが言った懲役三年という言葉が渦を巻いた。僕はまた全身が熱くなるのを感じ、母の目の前でまた勃起しそうになって慌てた。
「とにかく服を着たいんだけどな」と、かすれた声を出すと、母はこれ見よがしに大きく溜息をついて部屋を出て行ってしまった。
僕も隅のベットに全裸のまま身を投げ出し、大きく溜息をついた。やっぱり親子は似ているなどと詰まらぬ事を考えながら、一時期セックススキャンダルとして有名になった、築三百年の屋敷で起こった事件のことを思い起こした。
あの事件は学校でも地域でも、大きな声で言えない猥褻な裏話とともに、格好の暇つぶしをしばらくの間提供したのだった。ことに、母の華道の先生が屋敷の主の妻と親しかった関係で、母の情報は群を抜いていたはずだった。