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4 挑まれる性(3)

ピアノの前に座り、今の気分のまま弾けるだろうかと思い、隣にたたずむ彼女の顔を見上げて問い掛けてみた。
「ひとつき前、歯の治療で家に来たとき。暗くなってから、僕の部屋の外にいたでしょう」
「いたわよ」
「何か見ませんでしたか」
「何を馬鹿なこと言ってるの。あなたは素晴らしい裸を見せて真剣にマスターベーションをしていたじゃない。余りに、ひたむきなので声が掛けられず、歯医者さんも困っていたから、私が窓を叩いてあかんべーをしてやったじゃない」

僕は呆然として大きく口を開いてしまった。あの夜、窓の外には彼女だけではなく父もいたのだ。二人してマスターベーションの一部始終を見ていたなんて、あんまりのことだった。急に全身が熱くなり、頬が真っ赤に染まるのが分かった。
「何を気にすることがあるの。私たちは覗きに行ったわけではないわ。余りにもあなたが真剣だったので声を掛けそびれただけじゃない。そんなに赤くなる必要はないわ」

「必要があって赤くなっているんじゃあないですよ。恥ずかしくて仕方がないんです」
「何だ、恥ずかしがっていたのか。私は、あかんべーをしただけで帰ちゃったから怒っているのかと思った。気持ちは良く分かるけど、恥ずかしがる事なんてないのよ。マスターベーションなんて誰でもするんだから。私もする。でも、あなたのように真剣にすることは素敵な事よ。真剣に生きているって事なんだから。さあ、ショパンを聞かせて」
僕の経験不足の頭脳では何がなんだか分からなくなってしまい、そのもやもやとした一切の暗黒を指先に込め、力の限り鍵盤を叩いた。
スケルツォを弾ききって弾む肩を、彼女の腕が優しく抱いてくれた。次に続くドラマに、熱い期待を抱いた瞬間。

「これ、先生が帰って来たら渡してね」と目の前に突き出した紙は、ピアノの発表会の宣伝の校正刷りだった。
Mはこんな時もビジネスを忘れない。唖然として顔を見ると、いたずらっぽく片目をつぶった彼女がにこやかに「じゃあ、またね」と言った。

背中を見せてドアへ向かう彼女に「あの噂は本当なんですか」と、意地悪く声を掛けた。
ドアのノブを片手で握った見返り美人は、ジッと僕の目の中を覗き込むようにして「どんな噂にしろ、私のことについては全部本当の事よ。あなたも、もう理解できると思うのだけれど、真剣に生きる男と女の間には何だって有りなのよね」と、凄みのあるアルトで言ったのだ。

ドアを開け、半身を外に出したまま、しばらく間を置いてから彼女が言葉を続けた。
「確かピアニストは、もう学校へ行ってもしょうがなかったのよね。良かったら来週の水曜日に早引きして、蔵屋敷に来てみない」
開け放されたドアから寒い風が吹き込み、足元を冷たくなぶった。
Mがドアを閉め、帰っていった後も、すっかり入れ替わってしまった空気は冷たく汗ばんだ全身を包み込んだ。
水曜日に父の土蔵で何があるのだろうか。男女の間には何でも有りだと言い放った彼女の言葉が、全身が再び熱くなるような隠微な予感を運んで来る。
水曜日は終日、母が市の展示会で花を生ける日に当たっていた。
僕の身体は震えだし、全身に鳥肌が立ち、ペニスが急激に勃起していった。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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