- Date
- --/--/--/-- --:--
- Category
- スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
- Date
- 2010/10/25/Mon 15:00
- Category
- 第2章 -ピアノ-
「あなたの黒いビキニ、きっと私の彼に似合うと思うんだ。どこで買ったの、教えてくれない。もうすぐバレンタインデーじゃない」
やっぱり、付き合いきれないと僕は思った。この看護婦と後三十分過ごさなければならないと思うと情けなくなる。
「こんなパンツ、どこだって売ってますよ」
「冷たいのね。私の彼も素っ気なくて冷たいところがあるけれど、本当はとっても優しいのよ。きっとあなたも本心は優しいのよね。彼女はいるの」
「いませんよ」
「ほんとう。でも、彼女が出来るときっと優しくなるわ。きっとよ」
そんなもんだろうか、とは思ってみたのだが。僕は黙っていた。
「初対面のあなたにこんな話をする私を、変な子だと思う」
「思わない」と僕は言った。
初対面で、もっと変な話をした素敵な女性を知っていたからだ。そのお陰で僕は、病気でもないのに診療所で、看護婦と話す羽目になったとまでは言わない。
「そう、やっぱり君は優しいんじゃない」
いつの間にか、あなたが君になっていた。それに、見ず知らずの僕を優しいと言う。悪い気はしないが、特にときめきも感じなかった。Mと比べ、彼女は幼すぎるせいだろうか。
「僕は十八だけれど、失礼ながら、あなたは何歳ぐらいですか」
Mのようなスマートな聞き方は出来なかったが、思いきって年を聞いてみた。「ずいぶん礼儀正しい十八歳ね。私は二十七歳ぐらいよ」
ピーと口笛を吹くところだった。何と、彼女はMと同い年なのだ。僕はすっかり安心した。やはりMは特別なんだ。僕のプリマはやっぱり、こうでなきゃあ始まらない。
「何が始まらないの」と看護婦が聞く。
声に出さないことまで分かるのかと、目を丸くしたが、別にもう、どうって事はない。
「彼女がいなければ、始まらないって言ったんです」
答えた瞬間、外でクラクションが鳴った。やっとタクシーが来たと思ってコートに腕を通し、靴を履いて、看護婦を振り返ると、
「お注射のとき、君のあそこ、大きくなっていたでしょう」
真っ向から目が合ってしまい、満面に笑みを浮かべた看護婦が問い掛ける。
「ありがとう。あなたが、とても素敵だったから」
大きな声で彼女に応え、ドアを開けて冷たい雨の中に出た。身体がきゅっと引き締まり、また少し大人になったような気がした。