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2 緑化屋(4)

猫の目のように光った瞳は、閉めたはずの襖の細い隙間にあった。
大きく見開かれた瞳の中に、緑化屋が驚愕と恐怖を読み取るとすぐ、襖は閉められた。続いて走り去る、ぱたぱたというスリッパの音が耳を打った。

「しまった、祐子だ」と緑化屋は口にしたが、声が口から発せられることはなかった。彼の口には、ピンポン玉ほどの穴の空いたプラスチックの球が押し込められていたのだ。球の両端から延びた黒い皮紐が、首の後ろできっちりと結ばれていた。音声とならない声は、球に空いた穴から息となって洩れた。同時に一筋の涎が穴を伝って滴り、股間に顔を埋めた妻、道子の白いうなじを濡らした。

緑化屋は慌てて身じろぎしたが、後ろ手に緊縛された麻縄はびくともしない。
「ウー」と呻くとまた、陰惨な猿轡の中から息とともに涎がこぼれた。

まだ親子三人で都会に住んでいたときのことだ。娘の祐子は確か四年生になったばかりだった。まだあれから三年しか経っていない。
祐子が見たはずの緑化屋は素っ裸だった。
全裸のまま後ろ手に緊縛され、床柱に繋がれていた。その股間に顔を埋め、ペニスを口に含んでいる道子も全裸だった。祐子の目には、背後に高く突き出された道子の尻も見えたはずだった。目の前に突き出された母の股間に挿入されたバイブレーターは、祐子の目にどう映っただろうか。
緑化屋は全身の血が凍り付くような寒さを覚えた。

久しぶりに、あれほど猛々しく勃起していたペニスが急に萎えたので、道子は戸惑っている様子だった。小さく萎んだペニスを、しきりに舌で転がしている。
やがて、元通りにならないペニスに異常を感じ取って顔を上げ、もの問いたそうな目で緑化屋を見上げた。濡れた口元に張り付いている黒い陰毛が、スタンドの明かりではっきり見える。思ったより部屋は明るいのだ。

声を出せぬもどかしさに緑化屋は顔を左右に振り、畳に着けた尻を動かした。途端に鋭い痛みが喉と尻全体を襲った。首を二巻きして床柱に縛り付けた縄が喉を締め付け、さんざん鞭打たれて腫れ上がった尻が畳で擦れたのだ。
目の前の畳に投げ捨てられた黒い革鞭が、凶々しく目を打つ。
鞭も猿轡も、道子の股間に挿入したバイブレーターも麻縄もみんな、緑化屋が買って来た品だった。
動揺した緑化屋の目を見て道子が立ち上がり、首の後ろに手を回して猿轡の皮紐を解く。顔に被さってきた股間から、振動を続けるバイブレーターの微かな音が聞こえた。
緑化屋は、痺れきった舌で口の中の球を外に押し出す。涎まみれの白い球が左右に開かれた股間に落ちた。

「どうかしたんですか」
バイブレーターの入った腰をもぞもぞと動かしながら、道子が尋ねた。
「祐子に見られた」
我ながら情けない声が出たと緑化屋は思った。
「そうですか。鞭の音が大きすぎたのかしら。でも、まだ四年生ですから」
「もう四年生だ」
意外にあっけない道子の反応に苛立った緑化屋が声を荒らげた。

「見られたものは仕方ないじゃないですか。そんなことでできなくなってしまったんですか」
聞いた瞬間、全身が真っ赤になるのを感じた。
「君はなんともないのか」
「仕方ないでしょう。あの子の記憶を消しゴムで消すことはできないですし、それに、」
「それに何だって言うんだ」
「今夜のことは、あなたが望んだことなんですから」
また全身が赤くなるのを感じた。視線を落とし、スタンドの明かりに照らし出された自分の姿を見下ろす。
足首と腿を緊縛され、麻縄で大きく左右に広げられた股間が見える。股間の中心には小さく萎びきったペニスがぶら下がり、ペニスの両側にウエストを二巻きして股間に下ろした麻縄が食い入っていた。
確かにすべて、緑化屋が道子に頼んでしてもらったことだった。急激に恥ずかしさが込み上げてくる。

「そんなに気にすることはありませんよ。あなたは忙しすぎてストレスが溜まりすぎていたのだから、仕方ないじゃないですか。毎日仕事で午前様だったし、夜も眠れなかったんですもの。夫婦で解決できることをしただけですから、罪悪感を感じる必要はありません。本当に一年振りなんですからね」
緑化屋はまた頬を赤く染めた。確かに一年間道子を抱いたことはなかったのだ。しかし、道子の自信に溢れた言葉にも関わらず、緑化屋は再び性の喜びを追って勃起することはなかった。

緑化屋はその夜、瞼に残る祐子の視線の痛みとともに、自ら望んで道子に鞭打たせた尻の痛みで、眠りに就くこともできなかった。
そして、娘の祐子はその夜限り自らを閉ざしてしまった。



まさに岩壁に激突しようとする直前、黒々とした岩肌に浮かび上がったイヌワシとも祐子とも思われぬ瞳は、激しい衝撃とともに消えた。

機体の半分を押しつぶされたヘリは、岩肌の斜面に沿って落下していった。高度が落ちていたため、墜落のショックは瞬時にやってきた。床から突き上げる打撃を座席で丸くなって耐えようとした緑化屋は、反動で後頭部をしたたか打った。
幸い火災は発生していない。全身の痛みに耐えてセーフティーベルトを外し、身体を横に向けて腰に吊った携帯電話を手にした。すぐ目の前に、押しつぶされて妙な形にねじ曲がったパイロットの身体があった。緑化屋の口から脳にかけて酸っぱいものが上がってくる。最後の気力を振り絞って110番にダイヤルし、墜落事故を通報した。

急速に薄れていく意識の中で、ねじ曲がった身体と金色の目、それに祐子の瞳が錯綜する。やがて緑化屋の意識は混濁し、失われていった。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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