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- 2010/11/02/Tue 15:00
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- 第2章 -ピアノ-
自分の家にも関わらず、案内されるままに素っ裸で座敷に通る扉を開けた。父に会うことが分かっているのに素っ裸のままなのだから、ほとんど僕も狂っていた。
「さあ、ご覧なさい。これが歯医者さんの究極の趣味よ。もう絶対、紙漉きなんてする気もないみたいよ。ねえ先生。あなたの素敵なピアニストを連れて来ましたよ」と言う、Mの自信に満ちた言葉は、右の耳から左の耳へと消えてしまっていた。
素っ裸の僕は、奇妙な衣装を着けた、素っ裸の父と対面していたのだ。
父は縛られていた。素っ裸で縛られていた。がっしりした裸身に、黒々とした麻縄が縦横に走り、父はあぐらをかいたまま、惨めなペニスと肛門を宙に掲げて緊縛されていたのだった。
「ピアニストのパンツも素敵だったけど、歯医者さんの縄の衣装はもう、完璧でしょう。築三百年の家の主人が大好きだった衣装なのよ。それに、全部私の身体で試したことがあるから、自信を持って最高だって言えるのよ」
「やめてください」と僕は叫んだ。
なにが何でも悲惨すぎたし、たとえ百歩譲って父が望んだことだとしても、息子の僕にとっては許せる姿ではなかった。
「チチはなにをしてるんですか」と大声で呼び掛ける。
父は、萎みきったペニスと肛門を頭上に上げた情けない姿のまま、面倒くさそうに薄目を開けて僕を見上げた。
「やあ」と、苦しそうな姿勢のまま、目の合った僕に言ったのだ。
「やあ」と、仕方なく僕も答え、どう見ても父より大きく立派なペニスを恥じるように、力無く横を向いた。
「ピアニストが恥じることはないし、歯医者さんのことを軽蔑することもないと思うわ」と彼女が言う。
「ピアニストも歯医者さんも私も、みんな素っ裸でいるのだし、皆それぞれ思うところもあるの。私の希望を先に言えば、お願いだから歯医者さんの隣に、彼とぴったり身体が張り付くように縛り上げて欲しいと思うわけ。もちろん君に縛ってもらいたいの。歯医者さんと同じように後ろ手を高く縛り上げられ、あぐらを組まされてあおむけにされたいの。そして、肌と肌とを密着させたまま君の前で、性器と肛門を宙に掲げた、恥ずかしい晒し者にされてみたいわけ。君が拒絶するのは自由だし、希望があればそれを優先するわ。しかし、チチはもう、一歩先に踏み出していることだけは分かって欲しいのよ」
分かって欲しいと言う彼女に、無理があると僕は思った。父がどこへ向かって一歩を踏み出したのかも分からなかったし、僕が彼女を縛り上げなければならない理由もなかった。しかし、三人とも素っ裸でいるのだ。おかしな格好をした父を前にした異常な状況の中では、僕は一人きりの少数派だった。
珍しく早い決断で僕は言った。
「いえ、あなたの言う通りにはできません。どうしてもゲームに参加しなければならないのなら、僕をチチのようにしてください」
「そう、確かにゲームみたいなものなのだから、そんなに深刻になってはつまらないわよ。私は不満だけど、ピアニストの希望を入れるわ。さあ、跪いて手を後ろに回しなさい」
怖い声で言い切った彼女が、ぽかんとしている僕の頬を平手で張った。
ピシッという音が耳元に響き、熱い痛みが右頬に広がる。生まれて初めて頬を打たれたショックに全身を震わせ、ぎこちなく腰を折って彼女の足元に、うなだれて跪いた。
途端に胸を蹴り付けられ、背中から床に倒れた。