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8 逆さ吊り(4)

彼女はなぜ、僕が打ったときだけ声を上げたのだろうか。不思議だった。でも、うれしかった。「理不尽な舞台の上で、辛うじて僕の気持ちが通じた」と思いたかった。
「寒くて仕方ないわ。中に入りましょう」
乾いた声で母が言った。
その言葉を待っていたように僕は、Mを解放しようと、足を吊った梅の木へと駆け寄った。
「その女はまだ晒しておくのよ。頭を冷やさせるんだから」
鋭い叱声を浴び、幹に繋いだ縄に手を掛けたまま、僕は冷たく押しとどめられてしまった。
「この寒さだ。三十秒は持たないよ」と父が冷たく言う。
「三十秒ですって。とんでもない。五分間よ。決めましたからね。五分間そのまま晒して置くのですよ。チチもあなたも分かったわね。いらっしゃい」
僕に向かって言い放った母は、そのまま蔵屋敷の方へ足早に去って行く。ケンが母の周りをうれしそうに飛び跳ねながら、後に続く。仕方なく僕も肩を落とし、とぼとぼとMを残して歩く。寒い。
彼女はまだ、寒さを感じる感覚が残っているだろうか。
考えながら歩き、自動ドアの前まで来て振り返ると、街灯の青い明かりの中に舞う、灰色の雪の中にはっきりと逆さ吊りの裸身が見える。一面の雪景色をバックに、きめ細やかな肌の感触さえ分かるほど鮮明に、彼女が見えた。

「早く入りなさい」
母の呼ぶ声を無視し、雪の中で棒立ちになって目を大きく見開き、僕は異様な光景を見つめていた。
Mの傍らに残っていた父が、やにわに服を脱ぎ始めたのだ。
ダウンジャケットを脱ぎ、オーバーオールを肩脱ぎするや、パンツごとずり下げ、ブーツとともに脱ぎ捨ててしまう。残ったセーターをシャツと一緒に脱いで素っ裸になった父は、逆さ吊りのMの顔を跨いで身体を抱きすくめたのだ。

彼女の顔の上に、父の尻がのし掛かっている。
雪明かりの中で音も聞こえず、深々と降る雪の中で演じられた無言劇に僕は度肝を抜かれた。
凍えきったMの身体を温めようとする気持ちは良く分かるのだが、父の行動はやはり、父ならではのものだった。
「ずるいっ」と内心、叫んではみたが、もう手遅れだった。
やみくもに駆け出してみたが、気が急くばかりで雪に足を取られ、短い距離なのに何回となく転んだ。
全身雪まみれになって駆け付け、父の背に「チチはあんまりだよ」と泣き声で叫んだ。
目の前に、父の大きな裸の背中があり、尻の下に彼女の髪が見えた。
「後三分だ。おまえも脱げ」
背中を向けたまま、父が怒鳴る。
僕は大慌てで服を脱ぎ捨てた。素っ裸になった全身が瞬時に凍える。大きく身震いをして這うように、Mの背後に回った。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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