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3.爆破(1)

山地へ向かう街道を挟んで天満宮と向かい合う位置に工学部のキャンパスが広がっている。キャンパスのすぐ背後には山根川が流れている。細長い敷地だった。学科の新設や研究施設の充実のために建て増しを繰り返し、今や十数棟の校舎が無秩序にひしめいている。山地寄りの北隅に建つ五階建ての建物が都市工学科の研究棟だった。築三十年のコンクリートの外壁には枯れた蔦が一面にへばりついている。研究棟の左端の部分に地下室があった。かつて都市工学科のコンピューター室として使われていた二十畳ほどの部屋は、パソコンの普及に伴って大型コンピューターを撤去して資材置き場になっていた。今や訪れる人もいない。その地下室をシュータがサークル活動の名目で占有してしまってから二年になる。国立大学の鷹揚さで、学校側も使い道のない地下室の占有を黙認していた。学生の質の高さと高度な研究を誇る学風が管理の強化を嫌悪していたのだ。

「計画はパーフェクトだよ。不安はない。なぜ弥生が心配するのか、俺には分からない」
折り畳み式のパイプ椅子をきしらせて修太が興奮した声で言った。天井の低い地下室には暖房もなく、コートを着た六人の男女が輪になって椅子に座っている。修太に名指しされた弥生の表情が硬くなった。大柄の身体の背筋を正し、切れ長の涼しい目で修太を見つめた。透き通った声が地下室に響く。

「私は計画の不備を心配しているわけではないの。広報担当として、現場に爆発の警告をする必要があると言っただけ。今の段階で死傷者を出すわけにはいかないでしょう」
「いいや、警告は要らない。俺も修太に賛成だ。爆発は人のいないエレベーター通路を瞬間的に吹き抜けるだけだ。へたに警告を出して人を招き寄せたりしたら、それこそ取り返しがつかない。俺たちが開発した爆弾の精密度をもっと信頼してもらいたい」
修太の横に座った痩せた男が、尖った声で弥生を遮った。
「卯月の言うとおりだ。現場に警告は出さない。弥生は爆破後にインターネットで大衆に向けてアピールするだけでいい。いいね」
修太の声に弥生が渋々うなずいた。だが次の瞬間、細い眉を不満そうに眉間に寄せて、すかさず口を開く。
「では、正確な広報をするための資料を要求するわ。どうして急に軍事担当の卯月の計画が浮上してしまったのかしら。私には爆弾が完成してしまったからとしか認識できない。いつから最高会議は追認するだけの機能しかなくなってしまったのかしら。私は不満よ。せっかく総務、財務、広報、軍事、司法の担当者が揃っているのだから、主席の修太は全員から意見を聞くべきだと思う」
静かな声で言った弥生が口元を引き締めて修太の答えを待つ。心持ち上げたあごが修太を挑発した。

「弥生、今さら話をスタートラインに引き戻すのは許さない。そんな権限は最高会議といえども、俺たちにはない。上が決めたことを実行するのがシュータの仕事だ」
「それでも、どんな理由があるかを聞く必要はあるわ。正確な資料を知らなければ、とても広報なんてできない。シュータの主張を大衆に知って欲しいから地下に潜ってまで活動を続けているんでしょう」
弥生の言葉を聞いた修太の口元に苦笑が浮かんだ。大きく見開いていた目を閉じてしまう。総務担当の睦月が代わって口を開いた。ちょうど修太を女性にして一回り小柄にした感じの、人形のように可愛らしい顔に冷たい表情が浮かぶ。

「弥生が何を言いたいのか私には分からない。シュータはオシショウの教えを実行する組織よ。信仰に理由など要らない。私たちの信じる神ながらの道は社会変革に通じている。やがて滅びてしまう社会を滅びるのが惜しいまでに変革しなければならない。そうしないと滅びと等価になるエデンの境地が得られないからよ。まず私たちの住む地域社会の変革から一歩を踏み出すのよ。そのためにシュータは資産税の撤廃と義務教育の廃止を市に迫った。六か月も前のことだわ。でも今持って回答がない。回答がないどころかシュータの組織を洗い出そうと警察が血眼になっている。世間に顔の知られている弥生はよく分かっているでしょう。今日だって尾行を捲くのが大変だったんじゃないの。警告はもう何回もインターネットを通じて弥生たちが出したわ。後はシュータの実力で要求を呑ませるだけ。組織された暴力だけが敵を屈服させる。決まり切ったことよ。その力と意志がシュータにはある」

修太の隣で一気に話し終わった睦月の頬が赤く染まった。上気した顔で黒いマウンテンパーカーのファスナーを下ろす。パーカーの下から黒いスエットシャツが見えた。鍛え上げた肉体にも関わらず身体の線がセクシーだ。弥生は男雛と女雛のように並んだ二人を等分に見て再び口を開く。
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Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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