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4.虜囚(2)

水道記念館の二階、北向きの会議室に八人の男女が集まっている。天井が高い瀟洒な造りの一階と比べ二階の天井は低い。電気が停まっているため、ランタンの侘びしい灯りが天井を照らしている。足元は闇が占めていた。学校の教室ほどの広さがある部屋の中心にどっしりした樫材のテーブルが置かれ、十脚の布張りの椅子がテーブルを囲んでいる。

「煙草はやめてくれないか」
一番奥の椅子に座ったピアニストが冷たい声で注意した。慌てて卯月が煙草をもみ消す。ピアニストも横に座る修太も憔悴しきった青白い表情だ。暗く沈み込んだ雰囲気の中で、北側の隅に椅子を持ち出して座るオシショウだけが素知らぬ顔で目を閉じていた。取り澄ました声で卯月が話を続ける。

「軍事担当としては、計画は成功だったと断言できる。無人の市役所でエレベーターだけを派手に爆破できた。最高のデモンストレーションになったと思う。爆風も拡散せず、計算どおりエレベーターの通路をまっすぐ駆け上った。後は爆発のどさくさに紛れて戦闘員が逃げるだけで済んだんだ。すべてうまくいくはずだった」

「何を言うか。二人も死んでいるんだ。何が成功だ」
苛立った声でピアニストが卯月を叱責した。
「そう、二人とも俺の部下だ。水曜日と金曜日を殺したのは弥生だ。なぜ警備員が現場に来たんだ。前日の会議で、警告はしないことになっていたはずだ。なぜガス会社をかたって警告したんだ。余計なことをしなければ、二人は死なずに済んだ。弥生の独走としか言えない。俺は断固、懲罰を要求する」
うつむいて椅子に座っている弥生を憎々しげに見て、卯月がまくし立てた。卯月の弁明を無視してピアニストが修太を叱りつける。

「修太、お前の指揮にも問題があったんじゃないか。内部の人為的なミスが一番怖いと、あれほど言っておいたろう。まるで手術道具を体内に置き去りにしてしまったようで話にもならない」
「ピアニストが興奮しても始まらないよ。もうシュータは犯罪者として追われるだけだ。みんな一蓮托生だよ。どんな滅び方をすればよいかが問われているんだ。今後の計画を考える以外に道は残されていない」
意外に冷静な声で修太がピアニストを諫めた。肩を怒らせていたピアニストが小さくうなずく。部屋に沈黙が満ちた。睦月が間合いを計ったように腰を浮かせて口を開く。

「でも、今後の計画を立案する前に内部的なけじめは必要よ。弥生に不祥事の総括をさせる必要がある」
小柄な身体をテーブルに乗り出すようにして睦月が弥生を見つめた。全員の視線が弥生に集まる。顔を上げた弥生が震える声で答える。
「何の申し開きもできません。私の状況判断が甘かった。死傷者を出さないことだけを考えて警告したが、逆の結果になってしまった。二人の死は今後の行動で償いたい。どうぞ懲罰をお願いします」

「処刑だ」
卯月の罵声が飛んだ。弥生の切れ長な目元が震える。
「馬鹿なことを言うな。卯月、いい加減に冷静になれ。だが弥生は懲罰を免れない。司法担当の極月の意見を聞こう」
ピアニストが落ち着いた声で言って全員を見回す。弥生の横に座った極月が感情を抑えた声で答える。
「戦闘員を死なせた責任を問われたケースはありません。従って前例はないわ。でも、シュータの懲罰で一番重いのは反省です。これまでの最高の罰は反省三日間」

ピアニストが腕を組んで目をつむった。そのまま吐き出すように言葉を投げる。
「オシショウ、決断を聞かせてください」
「反省でよかろう」
つまらなそうに目をつむったオシショウが、つぶやくように言った。
「期間は何日です」
自分の職務を遂行するために、極月が反射的に尋ねた。
「二か月間にする。極月はすぐ執行にかかれ」
ピアニストが立ち上がって即答した。オシショウを除く全員が息を呑んだ。これまで三日間しか科されたことがない懲罰が二か月も続くのだ。だが、後二か月間がシュータに残されているかどうか誰にも分からない。シュータが滅びるまで、ずっと懲罰が続くかも知れなかった。弥生の肩が落ち、端正な唇がきつく引き締められた。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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