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10 修太(2)

修太は後ろ手のまま休まず駆けた。全身から汗が噴き出し、大量の熱気を吸い込む喉が痛んだ。
ログハウスのある対岸に渡る橋の袂で転んでしまった。顔から地面に倒れ、額と頬を擦りむく。構わず立ち上がって走り始める。
開け放たれたアトリエの戸から土間に飛び込み、喘ぐ声に力を込めた。

「父ちゃん、大変だよ。祐子と光男が眉なし女に誘拐されたんだ」
ろくろの前に鉢巻き姿で座り、大振りの皿と取り組んでいた陶芸屋が顔も上げずに答える。
「今日は終業式だったな。よっぽど成績が悪かったんだろう。悪い冗談はやめて食事の支度でもしろ。Mは留守だからな」
「冗談じゃないよ、本当だよ。ほら、俺も縛られているんだ」と言って後ろを向き、後ろ手の手錠を突き出した。
やっと顔を上げた陶芸屋が、修太の後ろ手を見て笑った。
「やっぱり玩具の手錠じゃないか。悪ふざけもたいがいにしろ」
「玩具じゃないよ。金属製だよ。どうやっても抜けないんだ」
「子供のくせに玩具の使い方も知らないのか。指で鍵穴の辺りを探って見ろ。小さなレバーがあるから、指先で上げるんだ。すぐ外れてしまう」

修太は言われたとおり、右手の人差し指で左手首を拘束した手錠の鍵穴の部分を探った。平らな金属の上の鍵穴の縁に、小さなレバーの感触があった。指先に力を入れてスライドすると、簡単に手錠が外れた。
あまりのあっけなさにしばし、ぽかんと口を開けて右手にぶら下がった手錠に見入った。金属でできてはいたが、修太の目にも精巧な造りには見えない。一目で玩具と分かった。だから眉なし女は、みんなを後ろ手にして手錠をかけたんだ、と得心がいった。あの恐ろしい状況の中で、後ろ手に手錠をかけられれば、それを玩具と疑う者など一人もいない。
あの眉なし女は頭がいいんだと、修太は感心してしまった。

「ほら見ろ、玩具だろう。早く昼飯の支度をしろ」
「確かに玩具だけど。祐子と光男が連れて行かれたのは本当のことなんだ」
誘拐という言葉が、出しにくくなっていた。
いつになく冷静すぎる父の態度が意外だった。この一か月間、秋の展示会に出す作品造りに真剣に取り組んではいたが、それにしても父の対応は素っ気なさ過ぎた。
「本当なんだよ。とにかく学校へ行ってくれよ。センセイが縛られたままだから、助けを呼ぶように言われたんだ」
「もう、お前だって手錠を外ずせるんだから、縛られているのが本当でも俺が行くことはない」
食い違う話に苛立った修太は、やはりMでなければ話にならないと思った。
「Mはどこにいるんだ。Mに頼むからいい」
「Mは会社の仕事で、元山渓谷の写真を撮りに行った。今ごろは、通洞坑の下の渓谷にいるはずだ」
「分かった。俺、行って来る」
「昼飯はどうした」
下を向いたまま、ろくろを回す陶芸屋が厳しい声を出した。
「飯なんか食うな」
大声で怒鳴り、左手から外した手錠を陶芸屋に向けて投げ付けた。
手錠は、ろくろの上で回っている制作中の大皿の中に落ちた。
「コラッ」
叱りつける声にも動ぜず、じっと陶芸屋の目を見つめる。
「父ちゃん。学校には必ず行ってください。センセイが父ちゃんの来るのを待っているんだ」
冷静な声で言えたことに内心喜び、修太は外に向かって一散に走り出した。

修太は元山渓谷へと続く山道を駆ける。
もう、服は汗でぐっしょりと濡れてしまっている。走る身体に布地がべったりと張り付く。修太は立ち止まってシャツを脱ぎ捨て、ズボンも脱いだ。パンツ一枚になったが、そのパンツも汗と精液にまみれている。
思い切ってパンツも脱ぐ。剥き出しの股間に緑陰を渡る風が心地よかった。生え始めた陰毛が風に揺れる。
修太は素っ裸で、また走り始めた。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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