- Date
- --/--/--/-- --:--
- Category
- スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
- Date
- 2011/02/11/Fri 15:00
- Category
- 第3章 -廃鉱-
装甲車のような四輪駆動のトラックが元山渓谷に添って山を上っていく。
運転席には陶芸屋が座り、隣に素っ裸の修太がいた。後ろの座席には町医者の奥さんとチェロが仲良く白い髪を寄せて座っている。ちょうど奥さんの家に五重奏団のことで来合わせていたチェロが、祐子を心配して同行することになったのだ。
「奥さんは看護婦だから戦力になるけど、チェロは何しに行くんだい」
修太が憎まれ口を叩く。
「恩師は緑化屋の代理に決まっているだろう。祐子も待っているんだから、気持ちの通じる恩師がいなければ困るんだ」
陶芸屋がたしなめるが、修太は「祐子のお守りなんて要らないよ」と、頻りにチェロに食ってかかる。どうも、相性が悪いらしい。陶芸屋が苦笑するが、チェロはどこ吹く風といった風情で車窓を流れ去る渓谷を眺めている。鋭くカーブした細い道を抜ければ、赤錆びた鉄橋に続く坂道に出る。
カーブを曲がりきって開けた視界に、鉄橋の前に止めた白いベンツが大きく映った。
修太の背筋に冷たい汗が流れる。眉なし女が戻って来たに違いなかった。産廃屋もいるかも知れないと修太は思った。しかし、今更引き返すわけにはいかない。
アクセルを踏む陶芸屋の足に力がこもった。
ベンツのすぐ後ろに、バンパーが触れ合う距離でトラックを止める。
「恩師と奥さんは車内にいてください。俺が様子を見てきます」
陶芸屋がドアを開けると同時に、修太が反対のドアから飛び出た。
「お前も車で待っていろ」
怒鳴られても修太は動じる気配もない。勝手にトラックの荷台に上がって荷物箱を開ける。
怖い顔で睨み付ける陶芸屋に大振りのマグライトを渡し、自分は小さなライトを手にした。空いた片手に一メートルほどの鉄パイプを握る。
「そんな物は置いていけ。喧嘩に行くんじゃないぞ」
厳しい声で陶芸屋が言うと、修太が仕方なく鉄パイプを荷物箱に戻す。
「父ちゃんは甘いんだよ」
わざと聞こえるようにつぶやいて荷台から飛び降り、先に鉄橋を渡ろうとする。
「待て、様子を見るだけなんだぞ。暴力沙汰になりそうになったら携帯電話で警察を呼ぶんだ」
修太は返事もせず、黙々と鉄橋を渡った。少し遅れて陶芸屋が続く。修太を殴りつけてでも車内にいさせるべきだったと後悔する。嫌な予感が胸元を掠めた。
アーチ状の石積みで形作った通洞坑入り口の、不気味に細く開いた鉄の潜り戸の前に二人でうずくまり、坑道の中をうかがう。
「ズガーンッ」
突然、中から銃声が轟いた。
反射的に修太が立ち上がった。戸を開けて小さな裸身が飛び込んで行く。間髪を入れずに陶芸屋が続いた。もう二人とも頭の中が真っ白になっていた。