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14 登り窯(2)

通洞坑の闇の中で、現実とは思えない冷気が、緑化屋の爪先から身体の奥へと上がって来ていた。
子供たち三人は、チェロと町医者の奥さんが外に連れ出していた。
目の下に横たわる二つの死体の前に残っているのは、緑化屋と陶芸屋、M、そして助役の四人だった。

「Mさんがしようとしたように、私も警察に通報すべきだと思う」
冷静な口調で言えたと緑化屋は思った。考えた末の結論だった。
二つの死体の処置を巡って長い議論が続いていたのだ。
「緑化屋さん。官僚とも思えない意見だ。いいですか、あなたは官僚なのだから、先ず全体のことを考えなければならない」
諭すように助役が続ける。
「いくらMさんが一人で責任を取ろうとしても、そうはいかない。緑化屋さん、少しは娘の祐子さんのことを考えたらいい。祐子さんは、Mさんと一緒に産廃屋を殺したと思っているはずだ。ここにいた者は皆、そう思っている。また、陶芸屋さんと修太さんは、自分たちが向こう見ずに坑内に飛び込んだから事件が起きてしまったと思っている。Mさん一人が責任を取ったとしても、皆さんの心の傷は消えるどころか、時とともに益々大きくなっていくだろう。産廃処分場の問題はもはや、雲散霧消してしまっている。県知事は建設を認可しないことに決めたのだ。産廃屋たちがゼネコンに頼まれて来たのか、利権を漁りに来たのかは知らない。しかし、仕事に失敗したやくざ者が失踪したからといって、気に掛ける者などいるはずがない。つまり、この人たちの存在理由はなくなっているのだ。今更葬式を出してやって、名残を惜しむ必要などない」

「しかし、助役さん。死体が残っている」
子供たちの気持ちを考え、暗い気分に落ち込んでしまった陶芸屋が困惑した顔で言った。
「そう、死体が残っている。そこでだ。陶芸屋さん、あなたの所には千三百度にも温度が上がる登り窯があるそうだ。三日三晩焚き続けるという。その窯ですぐ、焼き物をお焼きなさい。ついでに、この二人にも付き合ってもらう。跡形も残らないだろう」
「そんな無茶な」
陶芸屋が叫んだ。

「そうかな。今私たちは、法的にいえば些細なことで悩んでいる。Mさんと祐子さんが正当防衛か緊急避難で人を殺したこと。そして、Mさんが人を安楽死させたことだ。これは自殺幇助に当たるだろう。今度は、私を含めた残りの者が死体遺棄をしようというのだ。それぞれが今回の事件の責任を分担することが、そんなに無茶なことだろうか。先ず子供たちのことを考えるべきだ」
反論できる者は誰もいなかった。関係者ではない助役が手を汚そうというのだ。

登り窯を持つ陶芸屋がうなだれたまま首を縦に振った。続いて官僚としての緑化屋がうなずいた。
黙ったまま背を向けて、Mが坑道の入り口へと向かった。裸身に巻いた白いバスタオルが陶芸屋と緑化屋の目にまぶしく映った。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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