2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

13 通坑道-3-(5)

午後の炎天下に、スバル・サンバーの白い軽トラックが止めてある。
助役が運転席のドアを開け、窮屈そうに乗り込んだ。
「助役さん、私のワゴンがありますが、いかがですか」
「私の自家用車ですから遠慮せずに乗ってください。山地の足に使うには軽トラックの四輪駆動が一番便利なんです。なに、クーラーはちゃんと効きます。さあ、どうぞ」
センセイからバスタオルを受け取った緑化屋が、驚きを隠せぬ顔で助手席に座った。
「それでは、行って来ます」
センセイに声をかけると、白い排気ガスを立ち上らせて軽トラックが発進した。

二つの死体の前で、Mと祐子はぼう然と立ちつくしていた。冷え切った身体に張り着いた祐子の裸身が暖かく感じられる。人の肌は温かいのだ。
冷めたくなってしまったカンナの顔には、赤いタンクトップがかけられていた。祐子がかけた物だが、他にカンナの遺体を覆う物はなかった。Mも祐子も素っ裸だったのだ。Mは後ろ手に緊縛されたままだ。
気が付いた祐子がMの背後に回り、縄を解こうとするが、きつく戒められたカンナの執念は解けなかった。地面に落ちていた大型ナイフを祐子が拾い、やっとの思いで後ろ手の縄目を断ち切る。
自由になった両手を広げ、祐子の裸身をきつく抱き締めてやる。まだ残る胸縄に厳しく戒められた両の乳房に、祐子の熱い涙が滴り落ちた。

入り口の方から四人の姿が浮かび上がった。
修太と陶芸屋、奥さんとチェロの緊張した顔がランタンの明かりに浮かび上がる。ぼう然と立ち尽くす三人を尻目に、奥さんがカンナの裸身に歩み寄った。屈み込んで顔に載せたタンクトップを取り、検分する。プロの看護婦の手並みだった。小さく首を振ってタンクトップを元に戻して立ち上がった。続いて産廃屋の前に屈み込んで検分した。また小さく首を振って産廃屋の瞼を閉じさせ、ハンカチを取り出して顔にかけた。

「お二人とも死んでいます」
冷静な声で奥さんが告知した。
抱き締めた祐子の裸身が小刻みに震え、乳房の上にまた熱い涙が流れていった。
二人の死に彩られた沈黙が坑道に満ちた。

先ほどまでぼう然と立ち尽くしていたチェロが厳粛な表情で、背筋を正して歩み寄って来る。
驚いたことに、カンナの遺体に一礼して経を唱え始めた。なんとも言えぬ違和感を持ったが、それがチェロの本業なのだ。看護婦が死を告知し、僧侶が経を読む。極めて厳粛な儀式なのだが、Mには理解しきれない日常の侵入としか思えなかった。
カンナも産廃屋も、決して喜びはしまいとさえ思ってしまう。

いつの間にか祐子もMのそばを離れ、他の四人に合わせ、頭を垂れてじっとチェロの読経に耳を傾けている。
Mは急に込み上げてきた渇きを感じた。水が飲みたいのではなく、外の空気を胸一杯に吸いたくなった。

入り口の明かりに見入った目に、頭を垂れて神妙にたたずんでいる修太の裸身が映った。裸の胸に携帯電話がぶら下がっている。しばらく電話を見つめるうちに、Mは決心が付いた。警察を呼ばねばならない。二人も人を殺したのだ。
さり気なく歩き出したとき、読経を終えたチェロが振り返って、じっとMを見つめた。
「Mさん。お美しい。まるで観世音菩薩様のようだ」
感じ入った声で言って両手を合わせた。
「そう、私は美しいわ。カンナも美しかった。修太、私に電話を貸しなさい」
凛と響く声で言って右手を差し出す。
まぶしい目でMの瞳を見つめた修太が、ケースから抜いた携帯電話を手渡す。

「わー、みんないるんじゃないか。狡いよ、僕だけ置き去りにして」
狭い坑道から突然泣き声が響き、光男が姿を見せた。
「光男さんっ」と叫ぶ喜びの声が、奥さんの口を突いた。
これで全員揃ったのだ。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

最新記事
カレンダー
01 | 2011/02 | 03
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 - - - - -
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
free area
人気ブログランキングへ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR