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8.新しい提案(5)

「二十億円稼がないか」
飛鳥が無造作に言葉を落とした。部屋にいる全員が、一瞬意味が分からずあっけにとられた。日常生活に縁のない数字だった。金の単位に実感がわかない。オシショウだけがつむっていた目を大きく開いた。両眼が鋭く輝いている。大きく息を吸って飛鳥が言葉を続けた。
「個人の生活には縁のない金だが組織には必要な額だ。特に非常事態に見舞われた場合は何よりの武器になる。今後の希望に繋がるはずだ」
ピアニストがあきれきった顔で飛鳥の横顔を見た。しばらく間を置いてから失望の声が口を突く。

「二十億円が希望という商品なのか。話は分からないではない。だが、実現性のない夢を見ている暇などない。万一実現性があったとしても、二十億は金融機関のコンピューターのディスプレーに並んだ十桁の数字だ。実際には、どこにもそんな現金はない。非常事態にある組織が、画面の数字を食うわけにいかない」
「その現金があるんだ」

飛鳥の大声が食堂に満ちた。喉に渇きが込み上げてくるような、乾ききった沈黙が部屋を占めた。反応に満足した飛鳥が、声を落として再び話し始める。

「三月十日から五日間、市の競艇場で世界選手権レースが開催される。十年がかりで市が誘致したビッグレースだ。優勝戦の行われる最終日の売り上げは二十億円にもなる。全部現金だ。二十億の現金は確かにある。それもいわば泡銭だ。我々が有効に使って悪いことはない」

一瞬Mは耳を疑った。続いて怒りが全身に込み上げる。掲げた尻がブルブルと震えた。弥生のことを考える余裕もない。たちまち怒りが口に溢れる。
「テロリストに飽きたらず、強盗にまで落ちるつもり。最低な宗教があったもんだわ。社会変革が聞いてあきれる」
Mの怒声が部屋に満ちると同時に、ドアが開いた。冷たい風が吹き込み、白い裸身が食堂に入ってきた。ストーブの前に立った極月が怒りに全身を震わせる。チハルに緊縛された縄目の痕が痛々しい。

「この男の処罰を提議します。あの女に開放されて、やっと戻ってきたばかりなのに、まさか強盗の話を聞くとは思わなかった。この男と女が仲間にした仕打ちを、私と文月の身体に残る縄目の痕で思い出して欲しい」
怒りを抑えて弾劾する極月を、飛鳥が立ち上がって制した。百八十センチメートルを超える長身が全員を見下ろす。

「チハルが行った暴力は私が詫びる。彼女は忙しすぎたのだ。私だって相当の覚悟をして来ている。だがチハルが同行しなければ、私の提案を聞いてもらうことはできなかっただろう。私も手ぶらではない。事前に受け取ってもらいたい品がある」
胸を張って言った飛鳥が、床に置いてあった大型のアタッシュケースの一つをテーブルに上げた。無造作に錠をスライドさせてケースを開いた。型抜きしたスポンジに埋まった六丁の拳銃が黒く輝いている。ケースを見下ろしていた極月の目が大きく見開かれた。凶々しい暴力の予感に裸身が鳥肌立つ。飛鳥が拳銃を取り上げてピアニストと修太に手渡した。

「米軍制式のベレッタM92Fだ。9ミリ口径で装弾数は十五発。連続して発射できる。君たちの改造拳銃とは戦闘力が違う。もう一つのケースには弾丸千発とマガジン、フォルスターが入っている。すべてを進呈しよう。いわば結納金のようなものだ。これだけの武器を提供するんだ。私も一蓮托生であることを理解してもらいたい」
醜悪なプロポーズの様子を、Mは少し開いた股の間から見た。ピアニストが拳銃を握って重さを確かめている。ベレッタで狙いを付けている修太の目が輝いている。たたずんでいる極月の裸身の横に、じっと腕を組んで目をつむっているオシショウの姿が見えた。
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Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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