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10.現金強奪(5)

「来るぞ」
ピアニストが低い声で言ってエレベーターの正面に立った。弥生が卯月とともに扉の左端に退く。Mは右端に寄り、卯月から渡された閃光弾を握り締めた。携帯電話を握ったピアニストが一心に表示ランプを見つめる。電話は地階の水無月と繋がれている。赤い表示ランプが三階に灯る。低いモーターの音が扉越しに聞こえ、七階までノンストップの直通にしたエレベーターが四人の目の前を上がっていった。すかさず、ピアニストが携帯電話のコールボタンを押した。

地階の通路ドアの前で待機した水無月の胸ポケットで、携帯電話が振動した。本部ビルへと続くドアが開かれ、無人の通路を二人が疾走する。通路を七十メートル走り、直角に曲がる。また三十メートル走った左手に二つのエレベーターがある。小型の乗務用エレベーターの扉の両側にリモートコントロールで作動する爆薬を三十秒でセットする。後は爆風が届かないように祈りながら全力で走り、角を曲がりきるのだ。

「速い」
四階の廊下にピアニストの驚愕した声が響いた。全員が表示ランプを見上げて戦慄した。七階に着いたばかりなのに、もうエレベーターが下り始めている。二十億円の現金はすでに台車に乗せて、会計室に用意されていたに違いなかった。計画は狂った。もはや突入班が時間どおりに脱出できることを祈るだけだ。生還の可能性はある。リハーサルは最短時間で何回となくこなしてきたのだ。きっとできるとピアニストは思い定めた。胸ポケットからリモートコントロールの起爆装置を取り出してから、ゆっくり床に伏せた。青ざめた表情の三人がピアニストに倣う。

表示ランプが五階に点灯した。容赦なくピアニストが爆破スイッチを押した。床に伏せた四人の身体を衝撃が突き上げる。低い爆発音が腹に響いた。四人とも目を大きく見開き、表示ランプを見上げて耳を澄ます。ビル中にけたたましく鳴り響く警報音に混じって低いモーターの音が響き、目の前の扉の向こうでエレベーターが止まった。爆発の衝撃を関知したセンサーが作動して直通エレベーターを最寄りの四階で止めたのだ。地震を想定した震災マニュアル対応のエレベーターはありがたいものだった。爆発の衝撃を地震と勘違いして、この階で止まってしまう。もうすぐ扉が開く。

開き始めた扉の隙間から、Mと弥生が閃光弾を投げ込む。爆発の轟音とともに白い閃光が薄暗い廊下にきらめいた。四人は床に寝ころんで両手で目を覆う。狭いエレベーターの中ではひとたまりもない。薄く目を開くとエレベーターの扉が大きく開き、四人の男がよろばい出てきた。Mと弥生が立ち上がり、瞬間的に盲目になってしまった男たちの背後に回った。用意した手錠を男たちの後ろ手にかける。抵抗できる者は一人もいなかった。エレベーターの中に飛び込んだピアニストと卯月は、畳ほどの大きさがある台車を廊下に運び出した。大きなジュラルミンのコンテナが山になってぎっしり積んである。Mと弥生が銀行員とガードマンをエレベーターの中に追い立て、扉の閉鎖ボタンを押した。振り返ると、台車はもう長い廊下の中程を進んでいた。二人は走って台車を追い越す。非常階段のドアまで行き、仕掛けた爆弾の安全ピンを抜いて爆破させた。大きな爆発音の割に衝撃も爆風もない。錠のあった部分にだけ穴が開いた。ドアを大きく開け放つと暗闇の中に睦月の顔が浮かんでいた。踊り場の手すりがすっかり切り取られ、睦月の乗った作業用のゴンドラが床と並行して接していた。コンテナを満載した台車を突き出し。五人掛かりでゴンドラにコンテナを積み込む。計画と違って作業ははかどらない。予定よりコンテナが多すぎて、ゴンドラに積みきれないのだ。金種別に別れたコンテナを、額面の高い順に表示を選んで乗せるしかなかった。台車のバランスを考えて、重い小銭が下に積んであったことだけがうれしかった。

広大な場内に鳴り響く警報音が季節外れの蝉時雨のように耳に障る。遠くからもサイレンの音が響いてきた。緊急車両が競艇場に殺到してくる。最初の爆発からもう五分が経過していた。正面ゲートの方角から前照灯と赤色灯を闇に輝かせ、救急車が飛び込んで来た。高所作業車の前に急停止し、すぐ明かりとサイレンを消す。極月と文月の離脱班が到着したのだ。二人が救急車を降りて後部ドアを大きく開けた。

「よし、離脱だ。残りは放棄する」
台車に残った十個のコンテナを見下ろしてピアニストが決断した。卯月が睦月の横に飛び乗ると同時に、ゴンドラが大きく揺れて宙に浮いた。修太が高所作業車のヘッドライトを灯して慎重にクレーンを操る。やっとゴンドラが救急車の床に並んだ。素早くコンテナの積み込みが始まる。四階に残った三人はベレッタを抜いて、背後の廊下と眼下の闇に身構える。

「犯人がいたぞっ。おとなしく投降しろ」
廊下の奥から怒声が響き、数人の警官が走ってきた。ピアニストが天井の非常灯に向けて発砲した。十五発の銃弾が連続して手前から奥に向かって非常灯を撃ち壊していく。警官は床にぴったり伏せ、銃声が途絶えると同時に階段の陰に逃げ帰った。階段の陰から拳銃を抜いて応射してくる。積み残したコンテナで銃弾が跳ねた。ピアニストの横で弥生がベレッタで撃ち返す。廊下の奥からの発砲も増えてきた。パトカーが裏に回って来るのも、もう時間の問題だ。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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