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10.現金強奪(4)

三十分間ほど目の前を人並みが行き過ぎると、場内の人混みはもう疎らになっていた。五時半になると薄闇が辺りを包み始めた。行き交う者も制服姿のガードマンが多くなった。Mは卯月と連れだって非常階段の下に向かった。ピアニストと弥生はすでに到着していた。ピアニストが時計を見てから卯月にうなずく。Mと卯月は胸を張って非常階段を上っていく。同じ歩調で四階の踊り場まで上り、卯月がドアの前にうずくまって錠に鍵を差し込む。機械工学科の支持者が技術の粋を集めて作った万能のマスターキーだ。時間さえかければどんなドアでも開けることができるのは実験済みだった。しかし今日、卯月には錠のサイズしかデーターがない。十五秒ほどたってから錠が反応し、やっとドアが開いた。奥に長い廊下が見える。予想していたとおり、鍵を使っての侵入では警報は鳴らない。地上のピアニストと弥生に合図をしてから中に入り、ドアを細く開けて手で支えた。ドアが閉まると自動的に錠がロックされてしまうのだ。ピアニストと弥生が滑り込んでドアを閉めると、卯月がバッグから爆薬を出して錠の回りにセットする。素早く三人が背で卯月の作業を隠した。

本部の四階はシミュレーションの画面のとおり、廊下を挟んで大小の会議室が並んでいる。数個の非常灯だけが灯され、フロアは薄暗く、ひっそりと静まり返っていた。十年に一度有るか無いかのビックレースの最終日に開かれる会議などある道理がない。八十メートル続く長い廊下の果てに目的のエレベーターがある。ピアニストを先頭に、四人は堂々と廊下の中央を歩いて奥に向かった。大型の業務用エレベーターと小型の乗務用エレベーターの扉が並んでいる。見上げた表示では、二台とも一階で止まっている。時計を見ると五時四十五分だった。地階のエレベーターから銀行員が七階の会計室に上って来るまで、まだ十五分もある。四人はエレベーターの横の階段を上がって、踊り場で待機することにした。同じように地階で待つ突入班のことを思うと、強い連帯感が沸いてくる。


明るく照明された地階中央の身障者用トイレの中で、突入班の霜月と水無月、サポートの如月と神無月、皐月の五人が待機していた。客がいなくなり人影も途絶えた広い地階では、身を隠す場所はトイレしかない。五人の潜んだトイレは本部ビルへ続く通路のドアの前に位置していた。身障者用トイレは広いが、大人五人では身動きもままならない。四人は立っていたが、霜月一人が尻を剥き出しにして便器に座っている。しくしくとした痛みが下腹部を襲い、醜い音を立てて下痢便を排泄する。異臭が狭い個室を覆った。苦しさに眉をしかめた霜月が神無月を見上げ、か細い声を出す。

「このままでは、俺が足を引っ張りそうだ。分担を代わってくれ。作業は水無月ができる。ただ走ればいいんだ。頼む」
便器に座り込んだ巨体が、消え入ってしまいそうなほど縮んで見えた。
「もちろん俺が代わる。サポートだけは糞を垂れ流してもやれよ」
神無月が冷たく言って、霜月が抱えていた爆弾を乱暴な手つきで取り上げる。
「丁寧に扱え。爆発したらどうする」
霜月が苦痛を堪えて叱責した。
「この爆弾はピアニストが爆破スイッチを押さない限り破裂しないさ。俺の運命はあいつに握られるんだ。霜月は運がいいよ」
皮肉に答えた声が震えていた。霜月の背筋を冷たい汗が伝う。確かに神無月の言うとおりだった。

「六時ジャストだ」
気分を変えるように、爆弾を抱えた神無月が言ってドアを開けた。廊下の向かいに本部ビルに繋がる地下通路の鉄のドアが見える。突入をサポートする如月が上着の下からベレッタを抜き、ドアから半身を出して左右を見渡す。そのまま一気に地下通路のドアの前まで走り、壁に背を向けて屈み込んで拳銃を構えた。皐月が後に続いた。水無月と神無月もドアへ走り、用意してきたマスターキーを水無月が錠に差し込む。

「遅い、まだか」
遅れてきた霜月が片手を下腹に当てて苦しそうな声を出した。水無月の胸ポケットで携帯電話が一回振動してやんだ。急いで時計を見る。
「葉月からサインがあった。銀行員が到着した。二分遅れだ。次のサインでゴーだ」
水無月が低い声で言ってマスターキーを回す。確かな手応えがして、錠が外れた。後は四階にいるピアニストのサインがありしだい、百三十メートルを疾走するだけだ。

携帯電話で葉月のサインを受信した強奪班もエレベーターの前に急いだ。見上げる表示板が点灯し、一階で止まっていた業務用エレベーターが地階に下りる。正面ゲートから入ってきた現金輸送車が地下ゲートに到着したに違いない。シミュレーションどおりだった。ゲートで車を降りた銀行員が地階の警備員と合流し、二十億円を運ぶリヤカーほどもある台車を押してエレベーターに乗り込み、七階の会計室に向かうのだ。エレベーターの赤い表示ランプが地階に点いたことを四人が確認した。
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官能のプリマ全10章
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