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12.ひとすじの道(1)

Mと弥生、ピアニストの三人はやっとの思いで市街地に入り、官庁街に足を踏み入れた。左足を負傷したピアニストを庇って進む道のりは、潜んでは歩き、歩いては潜みの繰り返しだった。幸い見咎められることはなかったが、競艇場から六キロメートルを歩くのに四時間もかかってしまった。三人とも素っ裸のままだ。ここまで来る間に農家や住宅の物陰に何度も身を潜めたが、仕舞い忘れの洗濯物に出会うことはなかった。さすがに寒さが身に滲みる。

「銀行の角まで二十メートルはあるわ。見通しがよすぎるから走るしかない」
Mが小声で言って、駐車場の看板の陰から左右を見渡す。人影はなかった。慎重に耳を澄まして車のエンジン音を聞き取る。

「行くわ」
背後にうずくまる弥生とピアニストに短く言って、歩道に駆け出していった。銀行の玄関まで走って裸身が振り向く。踏み出した足を伸ばし、腰を低く落とした。尻の割れ目が大きく開き、踏ん張った両足の筋肉が力強く引き締まっている。一瞬静止した裸身が、まるで彫刻を置いたように美しく見えた。鍛え上げた肉体が次の行動に備えて身構えている。続いてピアニストの腕を肩に回した弥生が歩道に現れた。大きく見開いた目に外灯の明かりが反射する。揺れる乳房の横に吊ったベレッタの銃把も黒く光った。銀行の角で待つMの所まで走った二人が前方を見つめて驚愕する。広々とした四車線の道路を挟んで繭玉会館の威容がそびえ立っていたが、会館から突きだした小ホールまで視界を遮る物がない。会館の広場を含めた二百メートルを遮蔽物に隠れることなく走り抜けなくてはならなかった。今いる所さえ道路から丸見えなのだ。逡巡する余裕もない。弥生が切迫した声を出す。

「M、肩を貸して。二人でピアニストを持ち上げましょう」
声にうなずき、Mが右肩をピアニストの脇の下に入れた。二人で腰を落とし、タイミングをとって立ち上がる。そのまま四車線の道路を横断する。ピアニストも懸命に片足で路面を蹴った。三つの裸の尻が一線に並んで三人五脚でゴールの小ホールを目指した。やっとの事で三人は巨大な杯を伏せたような小ホールの陰に回り込めた。途端にヘッドライトの光が道路に交錯してエンジン音が響いた。すんでの所で目撃されずに済んだのだ。冷たくなった肌に冷や汗が滲み出す。鍛え上げた三つの裸身が、しばらくの間肩で息をついた。ピアニストの呼吸が苦しそうだ。左足首が無惨に腫れ上がっている。曲面を描く小ホールの壁に沿ってゆっくり進んでいくと、見通しの利かない場所に小さな窪みがあった。ホースや進入指示の柵を格納しておく収納庫になっている。三人がやっと入れるほどのスペースだったが、かろうじて寒風がしのげた。

「私が中の様子を見てくるわ。Mはピアニストとここにいて」
ピアニストの腕を肩から外して、弥生がMに提案した。
「いいえ、私がいく。弥生はピアニストを温めて上げなさい」
言ってしまってから、Mは意地悪な言葉を後悔する。
「いいよ、二人で行ってくれ。僕は子供じゃない。一人で大丈夫だ。館内に異常がなかったら、すぐ呼びに来てくれ」
ピアニストが痛みをこらえて二人に命じた。股間で縮こまったペニスが貧相に揺れている。じれったさが全身に溢れていた。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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