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11.集結地(2)

トレーラーの中で修太と睦月は運送会社の作業服に着替えた。極月と文月は偽救急車の運転席に戻り、卯月が二十億円と一緒に後部席に乗った。修太と睦月がトレーラーの扉をそっと開けて地上に降り立つ。長月と葉月が近寄ってきた。四人でトレーラーの扉に錠を下ろした。
「何の異常もない。静かな春の宵だよ」
長月が掠れた声で言った。
「悪いニュースがあるわ」
葉月が暗い声を出した。
「さっきラジオで聴いたけど、突入班の五人が全滅したわ。一人が胸を打たれて重傷を負った他は全員死亡。二人は爆風に巻き込まれ、二人は射殺された」
葉月の沈痛な声が響いた。修太の足が細かく震える。
「突入班は難しいポジションだったわ。男四人が中心になって受け持ってもだめだったのね。皐月がかわいそう」
睦月が意外に冷静な声で言った。

「一人は逮捕された。この先も計画通りでいいのだろうか」
四人の心をよぎった不安を長月が言葉にした。
「シミュレーションでも誰かが逮捕されることを織り込み済みだ。誰が生き残ったとしても、計画を漏らす者はいない。俺たちは強盗団ではないんだ。心配は要らない。仲間を奪還する楽しみも増えた」
修太が力強く答えた。奪還という言葉が三人を力付けた。トレーラーの中には二十億円の軍資金があるのだ。

「もうじき七時だ。劇団の公演が始まる。五分間アイドリングして、エンジンが暖まったら市街地に戻ろう。長月と葉月が先頭だ」
明るい声で言った修太が睦月と一緒に運転席に回る。長月と葉月ももう一台のトレーラーに向かった。太いエンジン音を轟かせて二台の大型トレーラーが発進した。トレーラーは駐車場を抜け出し、旧道を競艇場の方角に左折した。大きく弧を描いた道路の分岐点で右折してバイパスに乗り入れる。

「検問は大丈夫かしら」
運転する修太の横で、睦月が心配そうな声で言った。
「検問はない。あったとしても反対車線。市と競艇場を出ていく車だけが対象だ。市に戻ってくる車を慌てて検問する必要はない。網は広げるものではなく絞り込むんだ。警察は無駄なことをしない」
修太が断言したとおり、二台のトレーラーは順調に走り水瀬川を渡って市街地に入った。産業道路から官庁街に向けて左折し、市役所の新館に向かう。中央に分離帯のある四車線の道を二台の大型トレーラーがゆっくり走る。後続の乗用車がミズスマシのように追い越していった。

トレーラーのフロントガラス越しに異様な建物が見えてきた。巨大な楕円形の半球を屋根にした奇怪なフォルムが闇の中に浮かび上がっている。広いドームを逆さまにして屋根にしたような建築だ。市が五年の歳月をかけて造り上げた文化の殿堂、繭玉会館の威容だった。大きく張り出した屋根は織物で栄えてきた市の歴史をイメージした繭型屋根と呼ばれていた。屋根の高さは手前に建つ七階建ての市役所新館より高い。二千人を収容できる大ホールが自慢だった。昨年末のオープンから、まだ三か月と経っていない。

「あの会館が、コスモス事業団の文化部門の拠点になるはずだったんだ」
フロントガラスの視界に入りきれなくなった巨大な会館を見つめて、修太がしんみりした声で言った。
「私たちの集結地にふさわしいわ」
睦月の明るい声が響いた。
「まったくだ」
修太も明るく答えた。二人の小さな笑い声が運転席に満ちた。長月の運転するトレーラーが左折して市役所新館の構内に入っていく。広い駐車場の奥まで進み、隅に寄せてトレーラーを駐車させた。午後七時半になるのに駐車している車が多い。隣の繭玉会館で今夜公演している、劇団文学界の芝居を見に来た観客の車のようだった。オープン記念のこけら落としシリーズは演劇部門でも好調のようだ。きっと会館の駐車場は満車なのだろう。終演まで市役所の駐車場で待つことになる。二台のトレーラーはエンジンを切り、静まり返った駐車場の闇に溶け込んでいった。右手後方には、二か月前にエレベーターを爆破されたばかりの市庁舎本館が小さく見渡せた。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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