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10.現金強奪(2)

「最後のチェックをしよう。葉月と長月の遊撃班は、もう現場で待機している。残された時間は少ない。食べながら役割を再確認してくれ」
ピアニストが周りを見回して緊張した声で言った。手元のパソコンのキーを叩くと、何回となく見慣れた強奪計画のシミュレーションが画面に現れた。リラックスした声を装ってピアニストが配置を確認する。
「十二番目に行われる最終レースの優勝戦は、午後四時半にスタートする。突入班と強奪班の九人は、四時十五分を目標に二人ずつに別れて西側ゲートから場内に入ってくれ。場外の警備が終わり、帰り客の誘導に備えて戻ってきた振りをするんだ。専従の警備員は五十人だが、今日は臨時の警備員が百人もいる。優勝戦直前の興奮で怪しまれはしない。さり気なく場内を観察してくれ。客が帰り終わる五時半までに配置につけ。収容班の高所作業車は優勝戦の出走直前に正面ゲートから入れ。飛鳥が前もって門衛に電話を入れておく。まず怪しまれることはない。競艇ビルの北の照明灯は実際に四本も故障しているんだ。そうだな飛鳥」
呼び掛けられた飛鳥が前に出る。

「照明灯は四本とも昨夜故障させた。修理を頼まれた電気会社も確認済みだ。ただし修理予定は明日の月曜日。いつもの慣例なんだ。だが、一日早くなる修理に困る者はいない。電気工事とそっくりな大型クレーン車を用意して、鋸屋根工場の裏に止めてある」
ピアニストがうなずいて話しを続ける。
「離脱班の侵入は爆発の五分後だ。実際に駆け付けるパトカー、消防車、救急車の車列に紛れればいい。競艇場は隣町にある。巨大施設の競艇場で事故のあったときは、三市町の緊急車両が同時に駆け付けるんだ。互いに干渉している暇はないはずだ。疑われる恐れはない」
「救急車も白いワゴンを偽装して裏に用意してある。車体カバーを外せば出動できるようになっているよ。機材の調達はすべて、行き掛けの駄賃にコスモスの信用を使わせてもらった。日曜日の今日はコスモスも休みだ。問い合わせが来る心配はない。ついでにここで、全員に報告したいことがある。海外脱出用のクルーザーの手配が終わった。明日中に五億円を振り込めば、船員込みでいつでも出航できる。集結地点への到着は、夜中の零時までにしてくれ」
飛鳥が口を挟んで時計を見た。いつの間にか二時近くなっている。ピアニストが急いで先を続けた。最終チェックが終えた三時半にピアニストの携帯電話が鳴った。全員が耳を澄まして電話に注目する。

「オール、クリーン」
短いが、確かな女性の声が流れただけで電話は切れた。
「葉月からの最終報告だ。オール、クリーン、異常はない。二十億円が僕たちを待っている。出撃しよう」
ガードマンの制服に身を固めたピアニストが興奮を抑え切れずに高い声で言い切った。全員の目が輝き、室内に熱気が満ちる。携帯電話から流れる時報サービスに合わせて全員が腕時計を調整した。まず突入班の五人が出発する。後発の者たちと握手を交わし合い、全員で再会を誓う。

「生きて、またMに会いたいな」
霜月が大きな手でMの右手を握り締め、似つかわしくない真剣な声を出した。
「きっと会えるわ」
Mがうなずいて手を握り返す。
「うん、素っ裸でウサギ飛びをするMを、海外でもう一度見てやる」
「それは無理ね。今の私は足が速い」
苦笑して答えると、やっと霜月が笑った。緊張しきった巨体がやっと落ち着きを取り戻して出ていく。二十分後に、Mたち強奪班の四人も出発した。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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