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11.集結地(4)

極月は小道具搬入口の扉の前まで偽救急車を前進させてから停車した。扉を開ければそのまま、小ホールの陰になった東側の中庭から産業道路に出られるのだ。エンジンを切って、極月と文月、卯月の三人が舞台に戻ってきた。大道具搬入口のシャッターを閉めた修太と睦月、長月と葉月の四人も合流した。

「これで全員かい。犠牲者は出たが、とにかくおめでとう。さすがはシュータだ。計画を立てた甲斐があったよ」
相変わらずダークスーツを着込んだ飛鳥が頬を上気させて全員を見回す。
「ピアニストたち三人が遅れているが、今後も計画どおりでいいね。残念ながら人数が減ってしまい、一台のトレーラーは邪魔になった」
飛鳥が修太の顔を見つめて念を押した。
「変わりはない。計画どおり午前零時まで待つ。三人が来られなかったら予定どおり出発だ」
修太が飛鳥の目を見てきっぱりと言った。

「リーダーの代理がしっかりしていてくれてうれしいよ。警備員の巡回はちょうど午前零時だ。時報に合わせて爆破しよう。後は救急車とトレーラーに分乗し、騒ぎに紛れてここを脱出する。まさか半日足らずの間に二回も爆発騒ぎがあるなんて、誰も想像していない。県境を越えるのは簡単だ。救急車は大活躍だよ。まあ、お祝いに一杯やってくれ。オシショウがビールをおごるそうだ。もうじき来るだろう」
飛鳥の声に全員が喉の渇きを意識した。だが、修太が踏みとどまる。

「いや、爆破の準備が先だ。見張りも置かなくてはならない。睦月はトレーラーに戻ってくれ。極月は正面玄関を見張れ。俺と卯月はエレベーターに爆薬をセットする。他の者はここで待機」
すっかりリーダーが板に付いた修太が命じた。
「ちっ、オシショウは遅すぎる」
小さくつぶやいて飛鳥が舌打ちをした。黒いバッグを抱えた卯月と一緒に舞台を下りた修太が訝しそうに振り返った。素知らぬ顔で笑い掛けた飛鳥が二人に続いて舞台を下りる。広い客席の間の通路を一列になって抜け、三人はホールの出口に向かった。二重になった扉を開けると、二階まで吹き抜けになった広いエントランスホールの先に四基のエレベーターが並んでいた。ガラス張りの透明なエレベーターが繭型屋根の上に載った四階の大会議室まで利用者を運ぶのだ。修太と卯月は左端のエレベーターの前にひざまづいて扉の左右に爆弾をセットした。修太がリモートコントロールの起爆装置を取り出し、受信機に向けて同調させる。

「爆破の時は、どこを操作するんだい」
二人の後ろから作業をのぞき込んでいた飛鳥が真剣な声で聞いた。戻ってこない返事に苛立った声でまた尋ねる。
「その赤いボタンを押すと爆発するのかい」
「どこで押すかによるさ。爆弾の前で押せば時限装置が作動する。五分後に爆発するようになっているんだ」
なに食わぬ顔で修太が答えた。横で聞いていた卯月が驚いた顔で修太を見た。修太は小さく首を振って立ち上がり、大ホールへ戻ろうとする。

「準備完了だな。もうオシショウが待っているはずだ。ステージで乾杯しよう」
飛鳥が陽気な声で言って先頭に回り、大ホールのドアを両手で開けた。神殿の舞台の下手エプロンに小さなテーブルが置かれ、二本のビール瓶とグラスが用意してあった。
「みんな良くやった。惜しまれて戻ってきた者たちは光り輝いているぞ。さあ早く、その渇ききった喉を癒すがいい」
オシショウが舞台に戻ってきた修太たちに声を掛けた。舞台に残っていた長月と葉月、文月の三人はもうグラスを手に持たされている。飛鳥が素早くグラスをとって卯月に渡す。ビール瓶を持ってなみなみと注いで回った。

「修太はすっかり、リーダーらしくなった」
オシショウが修太にビールを勧める。もう拒否することはできなかった。持たされたグラスにビールが注がれる。思わず修太の喉が鳴った。オシショウが自分と飛鳥のグラスにもビールを満たした。飛鳥がさり気なく周りを見回してビールが行き渡ったことを確かめる。小さくうなずくと、オシショウが背筋を正して口を開いた。

「神ながらの道も、いよいよ海外に雄飛することになった。誉れ高く逝ってしまった者たちを惜しみ、喉を刺す美酒を飲み干そう。乾杯」
オシショウの短い挨拶の間にも、修太たち実行グループの乾いた喉が鳴った。乾杯の合図とともに、一斉に冷えたビールを飲んだ。

「ウウッー」

修太が一息にビールを飲み干すと同時に、両隣から呻き声が上がった。四つのグラスがステージに落ち、四人の身体が床に倒れた。卯月と長月、葉月、文月の四人が喉を掻きむしって苦痛に悶え、大きく全身を痙攣させてから急に静かになった。一瞬のできごとだった。素早く飛鳥が修太の背後に回った。相次いで倒れ伏した仲間を見下ろしたまま戦慄する修太の両手が、背中にねじ曲げられる。音を立ててグラスが床に落ちた。ぼう然として立ちつくす修太の後ろ手に飛鳥が乱暴に手錠をかけた。冷たい手錠の感触で我に返った修太が、大きく目を見開いてオシショウを見た。飛鳥の乾ききった声が耳元に落ちる。

「青酸カリというのは効きが速い。あっけないほどだ。思い悩む時間の余裕さえない。だが、まだ役目が残っている修太には青酸カリはやれない。事件の責任を取ってから滅びるんだ」
言い終わった飛鳥が修太の背を乱暴に突いた。力の抜けきった足がよろめき、修太は舞台に倒れ伏してしまう。急降下する視界の隅に、にこやかに微笑んでいるオシショウの顔が映った。オシショウは修太を見ようともしない。面倒くさそうに卯月の死体の前に屈み込んだ。フォルスターごとベレッタを外して立ち上がり、テーブルの上のビールの横に置いた。修太の前に屈み込んだ飛鳥が、口にきつく猿轡を噛ませた。エジプトの神殿が冷ややかに一連の出来事を見下ろしている。時刻はとうに、午後十一時を回っていた。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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