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9.強盗団(1)

二月も下旬になってめっきり日の出が早くなった。だが今朝の天窓には明るさがない。そのせいか、寒さもことさらに感じられる。Mの腕の中で弥生が身震いした。石鹸の香りが冷気に混じる。昨夜の楽しい入浴の記憶が凍える肌に満ち足りた気持ちを甦らせた。開放感が全身に拡がっていく。一か月振りに肛門栓を許されて眠ったのだ。違反を承知で入浴時に抜き取った肛門栓は、風呂を出るときにまた挿入されるはずだった。しかし、弥生は再び四つんばいになることを命じなかった。二人は自由な身体で寄り添って風呂を上がり、拘束されずに眠りについた。弥生が何事かを決意したと、その時Mは確信した。不幸の予感が肌を掠めたが、身近に寄り添う人格だけを信じようと思った。どんな状況にあっても、自らの責任と人格だけを信じて生きていくしかないと、改めて思い定めた。

「起きましょう。寒すぎるわ」
弥生が明るく声を掛けて毛布をはね飛ばした。冷気が全身を包む。震えながら起き上がった二人が素っ裸で向き合い、ウオームアップのマッサージを始める。肛門栓と鎖で拘束されていた昨日までと違い、擦り合う手に力がこもる。十分ほど擦り合って肌がほんのり赤くなったころ、弥生がMを広間に誘った。日課になっている食堂の雑巾掛けを始める素振りも見せない。

「今日から服を着ましょう」
当たり前のように言った弥生の声が耳を打った。心の底から喜びが沸き上がってくる。二人で広間の鉄棒に吊したトレーナーを取って、それぞれが素肌の上に着た。やっと自由な人間に戻れた感動がMの全身を満たす。たとえ一年続いたとしても、他人に裸体を強制されることに慣れることはできない。黒いトレーナーに身を固めた二人は両手を握り合って目を見交わした。うなずき合ってきつく抱き合う。それぞれの責任と人格で抱き合っている実感が込み上げてきた。

「武装しましょう。Mにも付き合って欲しい」
弥生が身体を離し、まっすぐMの目を見て言った。
「付き合うわ」
短く答えたMに迷いはなかった。弥生が武器を持つことを決断したのだ。善悪の彼岸を越えた答えが求められていた。Mの責任と人格が付き合うか否かを決定するだけだった。友愛という言葉がまた脳裏を掠めた。弥生が窓を開けて大きく雨戸を開け放す。目の前に一面の雪景色が拡がっていた。湿気を含んだ重い雪で松の枝が大きくたわんでいる。やっと咲き始めたハンノキの花にも雪が凍り付いている。音の途絶えた静寂の光景が白く一面に拡がっていた。

「試射にちょうどいいわ」
短く言って、弥生は食堂に向かった。Mが横にぴったりと並ぶ。昨夜、飛鳥が向かっていたテーブルの上には、大型のアタッシュケースが二つ置き去りになっていた。銃器を置き去りにして気に病まない、なんとも不用心な組織の不安定さが目立った。しょせん子供の遊びなのかも知れない。だが、弥生が新しい地平に子供たちを引き上げるのだ。弥生は二つのケースを開き、黒々としたベレッタと茶色のショルダー・フォルスターをMに手渡す。Mの右手でずっしりと重いベレッタが鈍く輝いている。弥生が十五発の実弾を装填したマガジンを銃把の底に滑り込ませた。Mも見まねでそれに従う。カチッと乾いた音がして装弾が完了した。二人は黒いトレーナーの左肩にベレッタと予備のマガジンを入れたショルダー・フォルスターを吊った。よく引き締まった大柄な姿態に大型拳銃がよく似合う。しばし互いの姿に見入って楽しそうに笑った。どこから見ても映画の画面から抜け出して来たような精悍な戦士に見えた。二人は胸を張って広間の窓辺へと向かった。歩みに連れて、ただ一か所拘束が残った陰部が違和感を訴える。だが、ほどよい緊張がリングで繋ぎ合わされた陰唇から全身に発信され、身が引き締まる思いさえした。リングを外す必要はなかった。かえって戦士の自負心を高めている。窓辺に立った弥生が窓ガラスを開き、フォルスターからベレッタを引き抜く。安全装置を親指で押し上げて外し、スライドを引いた。ガシッと力強い音がして弾丸が薬室に装填された。ベレッタを握った右手を伸ばし、左手を銃把に添える。両足を広げて腰を少し落とし、重心を下げる。五メートル先に垂れ下がった太い松の枝に狙いを定め、右手を握るようにして引き金を引いた。

ズガガガッーン

連続して銃声が轟き、雪景色に吸い込まれていった。瞬く間に十五発を連射した銃口から青い煙が薄く立ち上っている。何発の銃弾が当たったか分からなかったが、五センチメートルほどの太さがあった松の枝が無惨に折れて垂れ下がっている。頬を紅潮させた弥生が横に退き、場所を空けた。銃声を聞きつけて駆け付ける大勢の足音が背中に聞こえる。Mは騒音を無視して無造作にベレッタを構えた。弥生が狙った太い枝の根元に照準をつける。

広間に駆け付けてきた十人の耳を銃声が圧した。パニックになった耳の代わりに、大きく見開かれた二十の目に一切の情報を伝える。Mの両手に握られた大型拳銃の銃口から断続して小さな炎が躍った。銀世界の中にぶら下がった松の枝の根元に的確に銃弾が吸い込まれる。十五発の連射が終わると同時に、太い根元を撃ち砕かれた松の枝が地上に落ちた。
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Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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