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8.終焉(2)

清美の耳に、遠ざかっていく低いエンジン音が聞こえた。肩の力を抜き、正座した背を太い柱に預けた。闇の中で何も見えないが、裸身を覆った毛布がうれしい。冷え切った身体が温かくなっていくのが分かる。一人で放置されたことで気持ちの落ち着きも戻ってきた。尻に走る鞭痕が痛い。昨夜の屈辱を思い出して裸身がカッと熱くなる。大きく身震いすると縄目が軋った。乳房の上下を縛った縄が素肌を擦る。後ろ手にされた手を握り締めた。恥辱の姿態が闇の中に浮かび上がるようだ。だが、ついに進太は隙を見せたのだ。前屈させて天井から吊り下げた裸身に情けを掛けた。その情けを掛けさせたのが教師としての自分の力量だと思うと、今度は全身が矜持に震えた。清美は中腰になり、縛られた両手で柱をなぞった。縄尻を縛り付けた結び目がすぐに見付かる。二重になった固い結び目に爪を立てた。指先に力を込めて懸命に解こうとする。縄で括られた手首が痛くなると位置を変えて左手を使った。何回か手を替えて結び目に挑んだ挙げ句に、右の親指と人差し指の爪が割れた。血の滲む感触で背筋が寒くなったとき、さしもの結び目も緩んだ。急いで柱から縄を解き、痛む腰を我慢して立ち上がった。裸体を覆った毛布が床に落ちた。途端に冷気が素肌を襲った。だが、繋がれた縄から解放された喜びに勝るものはない。膝の上を縛った縄が邪魔をするが自由に歩ける。猿轡の中で喚声を上げた。闇の中をヨチヨチ歩きで扉へ向かう。足がもつれて転びそうになった。思わず悲鳴を発したが、裸の肩が壁に当たって持ちこたえた。おまけに壁が動いた感触があった。清美は渾身の力を込めて壁を押した。低い軋り音とともに扉が外に向けて動いた。白い光が射し込み、冷たい外気が頬に触れた。闇に慣れた視界が真っ白になる。大きく目を見開くと涙が出た。

後ろ手に緊縛された裸身が土蔵から外に転がり落ちた。枯れ草に降りた霜が素肌を責める。清美は歯を食いしばって立ち上がろうとするが、膝上を縛った縄が動きを邪魔する。やっとの思いで立ち上がり、ヨチヨチと三歩ほど歩いたが、素足を襲う霜の寒さに耐えられそうにない。焦りが全身を追い立てたが、この一瞬に逃亡を賭けるしかないと思い定めて土蔵に戻る。室の隅に投げ捨てられていたスニーカーに苦労して両足を突っ込む。足元さえ決まれば、たとえヨチヨチ歩きでも、二時間あれば街道に出られる。後は、戻ってくる進太と遭遇しないように注意すればいい。どうせ、進太はバイクで帰ってくる。あのかん高いエンジン音が警報になると思った。進太が去ってから、もう三十分は経過している。何としても急ぐことだ。清美は思いにまかせぬ歩みに歯がみをしながら、霜の降りた白い地面を歩いていった。

崩れた母屋を回って庭に出たときには、膝の上の肌に血が滲んでいた。歩みに連れて縄目が擦れ、皮膚が裂けてしまったのだ。だが、お陰で縄目が緩み、足が抜けそうな気がする。清美は眉をしかめて前方の長屋門を見つめた。屋根の上には真っ青な空が広がり、淡い日射しが差し込んでいる。日陰になった土蔵の周辺とは違い、降りた霜も溶け去っていた。狭い歩幅で苦労して歩いてきたせいもあるが、うっすらと裸身が汗ばんでいる。久しぶりに天気も温かくなるような気がする。裸の身には好都合だった。恥ずかしさを思い起こさぬように歩を進める。股間を縛られなかったことが唯一の救いだった。進太は昨夜、清美の裸身を様々に縛り上げ、最後に股間縛りで歩くことを強いたのだ。にやにやと笑いを浮かべて見つめる進太の前で、一歩を踏み出した途端に陰部を激痛が襲った。あの屈辱は今も忘れることができない。女の性をなぶりきる責め苦だ。股間にめり込んだ縄が、情け容赦もなく性を蹂躙したのだ。だが今は、不自由な歩みでも普通に歩ける。股間を縛らなかった進太の落ち度を嘲笑ってやりたかった。庭の中央にある松の木の下まで来たところで、膝上を縛った縄がようやく抜け落ちた。もう歩行を妨げるものはない。後ろ手に緊縛された裸身を躍らせて長屋門に向けて走った。もう一時間近く経過した気がする。今にもバイクのエンジン音が轟いてくるような気がして恐ろしかった

進太はドーム館の駐車場にゲレンデヴァーゲンを戻した。昨夜清美の自転車にぶつけたフロントバンパーを点検してみたが、大小無数の傷があって特定することができなかった。安心してリアゲートを開け、蔵屋敷に寄って積んできたバイクを下ろした。エンジンをかけると、かん高い轟音が心地よく谷間にこだました。四輪車よりバイクがいいと心底思う。玄関まで行ってインターホンを押してみたが、やはりチハルは帰っていない。ゲレンデヴァーゲンのキーを郵便受けに投げ入れてからカワサキKX60に跨った。土蔵に残してきた清美が急に心配になる。凄いスピードで山を下って築三百年の屋敷を目指した。往路と同様、街道を走るときは気を使った。しかし、今日は幸い土曜日なので学校が休みだ。通学する生徒たちの目を気遣うことはない。アパート暮らしをしている清美の失踪も、月曜日まで秘匿できるかも知れなかった。すがすがしい気持ちで横道に入り、全身に朝日を浴びてスピードを上げた。中腰にしたままハンドルを握り、荒れた路面から伝わるショックを膝の屈伸で吸い取る。面白いように路面の凸凹をクリアできた。額にうっすら汗が浮き出たころ、右手に遠く長屋門が見えた。まだ黄色い枯れ葉が残るクヌギの枝越しに見た長屋門は、どことなく不吉な様相をしていた。浮かび上がってきた不安を吹き飛ばすように、素っ裸で放置してきた清美に思いを馳せる。
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Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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