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2.ワサビ田(4)

「ねえ、M、もうじき夏休みが終わるよ。早くバイクを買ってよ。約束だろう。バイクがないと、僕は虐めに耐えられない。クロマルがいてバイクがあれば勇気がわく、二学期から学校に行けるよ」
Mの背後で進太が甘える声で言った。変声期に特有な掠れた声だ。水貯まりに沈む少女の死体を目の前にしたMには不謹慎としか聞こえない。腹立たしさが募ってきた。黙ったまま進太の目を見る。
「やっぱりMは忘れてたんだ。でも、いいよ。チハルが一緒に市に行ってくれるってさ。昨日ドーム館へ遊びに行って約束したんだ。バイク屋で気に入った車があったら買っていいでしょう。チハルがお金を立て替えてくれるし、バイクを運べる車もあるんだ。ねえ、ベンツだよ。ベンツのジープなんだ。凄いだろう」
にらみ付けるMの気持ちにお構いなく、進太が陽気な声で言ってチハルを見た。チハルが大きくうなずき返す。
「アメリカから注文しておいた車が昨日納車になった。メルセデスのゲレンデヴァーゲンG320のAMG仕様だ。もちろんバイクも積める。初乗りのついでに私が進太を市に連れていく。百姓仕事しか興味のないMに文句はないだろう」
得意げに言ったチハルの声でMの怒りがはじけた。

「何を言っているの。あなたたちに哀れみはないの。死者を前にして話すことじゃないわ」
怒声が谷間に響き渡った。進太がぎょっとして水貯まりをのぞき込む。
「あっ、久美子だ。本当に死んでる。きっと首を絞められたんだよ。ほら、痣になってる」
見慣れたものを観察するように、水面をのぞき込んだ進太が感動した声で言った。反射的に死体を見下ろすと、確かに細い首の回りに青黒く鬱血した痕が目に入った。同時に脳裏を衝撃が満たした。目を閉じた穏やかな死に顔には、確かに見覚えがあった。


いつもは大きく見開かれ、好奇心に溢れていた目の持ち主は、クーちゃんと呼ばれる知恵遅れの少女だった。進太と一歳年が違う小学校六年生の久美子は、三年ほど前までは蔵屋敷にも良く遊びに来ていた。当時から早熟で、勉強の良くできた進太には友人は極めて少なかった。自分で創造した世界でクロマルと遊ぶ進太にとって、唯一の他者が知恵遅れの久美子だった。久美子にも友達がいなかったようだ。進太に命じられるままに、久美子はごっこ遊びの役割を懸命に演じていた。それは赤毛のアンであったり、家なき娘であったりした。Mの与えた世界名作全集を疑いもなく読み、進太がその世界に浸っていたころの話だ。だが、幼いほど素直で邪気のなかった空想の世界は二年と続かなかった。いつしか進太の創造した世界におぼろげな性が入り込んでしまったのだ。Mには突然のことのように思われてならない。それは進太が小学校四年生の晩秋のことだった。日溜まりになった蔵屋敷の裏庭へやってきた進太とクーちゃんが、いつものように遊び始めた。Mは丸木橋の前に止めたスバルサンバーの荷台から二人を見ていた。五メートルと離れていない。心地よい秋の日射しの中に現れた子供たちは郷愁を誘った。声を掛けそびれたMは、軽四輪トラックの荷台に隠れるようにして二人の遊びに見入った。学校遊びでもあるのだろうか、正座したクーちゃんの前に進太が立ち、右手に細い篠竹を持って蔵屋敷の白壁をしきりに指し示している。クーちゃんがうなずき、進太が首を振った。声までは聞こえないが、風に乗って二人の笑い声が流れてくる。微笑ましい光景にMの口元が緩んだ。その瞬間、進太が向きを変えてクーちゃんの横に立った。クーちゃんは正座したまま頭を下げ、尻を掲げてひざまずいた。素早く進太が赤いスカートを捲り上げ、両手で白いパンツを膝まで脱がした。明るすぎる日射しを浴びた小さな白い尻がMの目を打った。思わず息を飲み込んだ途端に、進太が篠竹の先を尻の割れ目の中心に差し込んだ。ヒッーというクーちゃんの悲鳴に進太の笑い声が被さった。Mの全身がこわばる。目と耳から入った刺激がMの下半身を貫く。口元の笑いが凍り付き、痛みの記憶が肛門を襲った。

「進太っ、クーちゃんに何をするの」
怒りに満ちた叫びが響き渡った。トラックの荷台で立ち上がったMを、二人の子供が驚愕した目で見た。進太の目に浮かんだ驚愕の色が憎しみに変わるのを認めたとき、二人の逃げ出す足音が聞こえた。青い半ズボンと白シャツを着た進太の後ろ姿が走り、赤いワンピースのクーちゃんが頼りない足取りで続く。目で追うMの胸に深い悔いが残った。とっさの叱声が幼い性を傷付けたことを実感した。だが取り返しはつかなかった。その日以来、クーちゃんは蔵屋敷に来ることはなかった。進太の創造するごっこ遊びもその日で終わった。

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Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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