2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

3.拉致(2)

「キャー」
水音に被さる女の悲鳴に被さって、男の低い怒り声が響いた。意味不明だった。英語ではない。チハルは害意が無いことを示すように小さくホーンを鳴らした。だが、ホーンの音は男の怒りに油を注いだようだ。裸身を震わせてしゃがみ込み、足元の石を拾って振りかぶって投げた。金属音が響き渡り、石はボンネットに当たって跳ね返る。チハルはさらに進む。無理に笑いを浮かべて片手を振ったが、期待した反応はない。褐色の裸身が再びしゃがみ込んで、今度は猫の頭ほどの大きさがある岩を掴んだ。先が切り立った凶器のような石だ。その足で流れに踏み込んできた。チハルとの距離は三メートルしかない。怒り狂った目が大きく見開かれているが、肩と腕の筋肉が震えている。彼も怖いのだとチハルは思った。もう停車するしかない。チハルはハンドルを男の方に切って車体を斜めにした。AMG仕様のゲレンデヴァーゲンは、エキゾーストパイプが助手席のサイドステップの下に位置している。水流を被らない角度で停車するしかない。しかし男は、自分に向けられた車体を攻撃してくるものと誤解した。石の凶器を振りかぶって水を蹴り、嬌声を上げて運転席に迫ってきた。チハルは身体を捻って助手席のレミントンM1100を握った。素早く中腰になって銃口を外に向けた。

「フリーズッ」
大声で言って安全装置を外す。もう男の裸身は目前に迫っていた。荒々しい呼吸音がチハルの耳を打つ。振り下ろされた腕を見つめながら、指先の力を抜いて引き金を引いた。

ズガーン

狭い車内に銃声が響いた。散弾を腹に受けた男の裸身がガクンとのけ反る。振り下ろされた石の凶器が鋼鉄のドアを叩いた。チハルは連続して引き金を引いた。血しぶきが飛び散り、肉がはじけた。二つに裂けた裸身が水面に落ちた。

「キャー」

岩場から女の悲鳴が聞こえた。銃声の残響が耳でこだまするチハルには、虫の羽音のように小さく聞こえる。銃を持つ手が微かに震えた。また人を殺したと、冷静に理解できた。これで三人目だった。ボギーとの野外セックスの思い出と共に、殺人の記憶がチハルを一年前のロサンゼルスにつれていく。


昨年の五月二十六日の宵のことだった。ロサンゼルス郊外にあるボギーの屋敷はまだ薄明かりが残っていた。広い庭地の中央にあるプールで、チハルとボギーは汗が出るまで泳いだ。泳ぎ疲れると、火照った肌に汗と水滴をきらめかせてプールサイドに上がった。二人とも素っ裸だ。ボギーの漆黒の肌が、薄明かりの中で輝いている。巨大なペニスの先で、ピアッシングした金のリングが揺れた。リングに繋いだ長さ二メートルの細い鎖は、チハルの股間のリングと結ばれている。エネルギッシュに泳ぐボギーに、陰唇にピアッシングしたリングを引かれてついていくのは本当につらかった。小さな肩が荒い息に応じて激しく上下している。白い胸に盛り上がった、張りのある乳房がゆったりと揺れる。素肌を掠めていく風が心地よかった。チハルの正面に立ったボギーが、しなやかな両手を伸ばして尻を抱いた。大きな手で優しく双臀を押し開く。剥き出しになった尻の割れ目を風がなぶっていった。陰部が熱く燃え上がる感覚がうれしい。そっと目を閉じるとボギーが抱き締めてくれた。厚い胸板が顔を覆い、固い胸毛が頬に痛い。臍の上に押し付けられた、ぐんにゃりしたペニスが固く勃起してくる。チハルの鼻孔にボギーのきつい体臭が満ちた。至福の時が始まる予感に全身が震える。

チハルがボギーと付き合いだしたのは、ハイテクゲーム機メーカーのアメリカ子会社コスモス・アメリカの副支配人になる直前のころだ。西海岸で名高い証券会社のアナリストをしているボギーと初めて会ったのは、社債発行のアドバイスを受けにいったときだった。白人の現地支配人につれられて会ったボギーは、金融に知識がないチハルに親切に教えてくれた。支配人と接するビジネスライクな対応とは対照的だった。二人の間を人種問題が仲立ちしたといっても、あながち的外れではなかった。だが、セックスへと進む男と女の関係が始まるのに理由は要らない。週一度の情事は、そのころからごく自然に始まった。もう六年目になる。金融のトップビジネスマンのボギーは、白人との離婚歴のある三十五歳の黒人男性だ。驚くほど収入はあるが、自由になる時間は少なかった。二人の関係は週一度はおろか、月に一度も会えないことがあった。アメリカの女性には許されない仕打ちだったが、日本人のチハルには待ちこがれる時間もうれしい。その間は、チハルも仕事に没頭した。何よりもボギーを信じ、ボギーもチハルを信じていた。長い関係を続けられた裏には、それぞれ勝手に勘違いした文化の違いもあったかも知れない。長続きした、もう一つの理由が性の技法にあった。二人のセックスはいつも健康的だった。知り合ってしばらくしたころ、二人は揃って性器にピアッシングした。そのリングを鎖で繋ぎ合ったまま、ボギーの広壮な屋敷の庭で一緒に汗をかいた後セックスに興じた。運動不足の二人には、まるでアスレチックジムへ通うような感覚で、官能を楽しむことができた。野外のセックスは大らかで、豊かな官能を与えてくれたのだ。
立って抱き合ったまま、二人は濡れた身体で愛撫を続けた。チハルの膝が震えだし、股間に愛液が溢れる。
「もうだめ、我慢できない」
つぶやいてチハルが膝を崩した。ボギーが手を緩めて裸身を支える。チハルはプールサイドに敷いた分厚いタオルの上に手足をついて這う。頭を下げて高く尻を掲げた。辺りはもう闇が迫り、水銀灯の光だけが白と黒の裸身を美しく照らしだしている。漆黒の裸身が、白い裸身の背後から覆い被さる。巨大なペニスが体内に進入した。その圧倒的な質量がチハルの下半身全体を占有する。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

最新記事
カレンダー
12 | 2012/01 | 02
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
free area
人気ブログランキングへ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR